第33話 久しぶりの薬屋

「わぁ…棚が埃だらけ。残ってる薬草も使えなさそうだな。」


久しぶりの店は誰もいなかったために埃が積もっていた。

店に入る前に隣のおばさんの無事は確認できたため、

王宮へと人を使って連絡し待つことになった。


「王宮から迎えが来るまで時間かかるだろうし、掃除して待ってようかな。」


待っている時間やることも無かったので、雑巾を水に浸してしぼり、

カウンターから拭き掃除を始めた。

次に店に来るのがいつになるかわからないし、

もう私自身が店に立つことも無いだろう。

人に任せるにしても、綺麗な店の方が喜ばれる。

拭き掃除をして、いらないものを処分しておこう。


一通り拭き終わった時に、誰かが店に入ってきた。

数人の大きな男性が入ってきたので、お客さんかと思って声をかける。


「あ、すみません。今はお店をやっていないんです。」


買いに来たのならあきらめて帰ってくれるだろうと思ったのに、

その男性たちはニヤニヤ笑うだけで出て行こうとしなかった。


「あの?片付けているだけで、薬は無いんです。」


「俺たちが欲しいのは、薬じゃなくて、あんただ。

 大人しくついてきてくれればケガはさせない。

 大事に連れてくるように言われてるからな。」


「…連れてくるって、どこに連れて行くつもりですか。」


「ハンナニ国だよ。あんた家出した貴族の娘なんだろう?

 ここに戻ってくるようなら連れてくるように頼まれてたんだよ。

 しばらく来ないからもうあきらめようと思ってたんだけど、運が良かった。」


「私は…家出なんてしてません。ハンナニ国の貴族でもありません。」


「家出した娘はみんなそう言うんだよな。

 ま、俺たちにとってはどっちでもいいんだ。」


「どっちでもいいって…。」


「連れて行けば大金がもらえる。

 その後、あんたがどうなろうと知ったこっちゃない。

 でも、おとなしくしていれば、ハンナニ国に行くまでは無事だ。

 逆らうなら、ここで縛り上げて無理やり連れて行くことだってできるんだぞ。

 な、おとなしくしてたほうがいいだろう?」


「…。」


どうしよう。どうしよう。

ここで暴れたら本当に縛られて連れて行かれるだろう。

王宮薬師だって言ったら、ダメだ。よけい高値で売られるだけだ。

フォンディ家と言っても通用しないだろう。

…何も武器も持ってないし、持っていてもこの大男たちに通用するとは思えない。

とにかく時間をかせごう。王宮への連絡はしてある…。

間に合うかどうかはわからないけど、できるだけ時間を引き延ばせれば。


「…わかりました。おとなしくついていきます。

 でも、旅行の準備をさせてください。着替えも持たないで行くのは嫌です。」


「仕方ねぇな。すぐ用意しろよ。見張りはつけるからな?」


「はい。」


これで、少しは時間が稼げるかな…?

奥の私室に行って、大きめの鞄を出す。その中に服や下着をたたんで入れていく。

何か他にも必要だと言えるものはあるか?残ってる薬で使えそうなものは…。

虫よけの煙幕がある。一時的に目を見えなくさせることができるかもしれない。

私室の机の上に置いてあるのを服の中に隠して入れる。


「もう準備は良いだろう?早く行くぞ。」


見張りについていた男が待ちきれなくなったようだ。

何か隙はないだろうか…煙幕を投げつけるのに、少しの隙があれば。



ドンドンドン!

薬屋のドアが乱暴にたたかれる。


「ルーラ、ここにいるのか!?」


ノエルさんの声だ。ドアに鍵がかかっているらしい。



「…誰か来たのか。黙ってろ。」


男たちは静かにしてやり過ごすことに決めたらしい。

みんながドアの方をみて様子をうかがっている。今だ。

虫よけの煙幕を床にたたきつけて、息を止めて目を閉じる。


「うわっ。なんだ!この煙!ごほっ。…っげほげほ。」


「目にしみる。みんな目を開けるな!」


それほど広くない店内はあっという間に煙で充満した。

虫よけの煙は目に入るとしみて痛い。男たちはしばらく目を開けられないはずだ。

私は目を閉じても店の中ならどこになにがあるかわかってる。

誰もいなかったカウンターの中を通って、ドアの近くに行く。

ドアの近くにも誰もいなかったはずだ。

たどりついて、鍵を手探りで開ける。

開いたと同時に外に飛び出して、すぐさまドアを閉めた。


「ルーラ!」


目を開けるよりも先にノエルさんに抱き上げられていた。


「ルーラ、大丈夫か。今の騒ぎは何だ!」


「ノエルさん、中にハンナニ国に頼まれた男たちが何人かいて、

 私を連れて行こうとしてたの。

 虫よけの煙幕がはられているから、一人ずつ外に逃げてきたら捕まえて!」


「わかった!」


私を降ろして背中に隠すと、魔剣を出してかまえている。

ドアから一人ずつはい出るように出てくるのを剣を突き付けた後で、

手刀でたたいて気を失わせている。

騒ぎを聞きつけて出てきた近所のおじさんに頼んで、

男たちを縛り上げて横に並べていく。


「こいつら、数か月前からこの辺ウロウロしていた奴らだ。

 怪しいとは思ってたが、ルーラちゃんを連れて行こうとするなんて。

 おい、みんな手伝え。騎士を連れて来てくれ!」


おじさんたちの連携で、どんどん人が集まって協力してくれる。

最後の一人を気絶させた後、ノエルさんが薬屋の中に入り、

残党が隠れていないか確認してくれる。


「もう大丈夫だ。安心していい。」


そう言って、ノエルさんが私を片手で抱き上げる。

えぇ。もう大きくなったから片手で抱き上げるのは無理だと思ってたのに…。

私ってまだ小さいの?


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