第20話 薬師の仕事

夕食を食べた後で湯あみをし、いつも通りに夜着に着替え、ノエルさんを待った。

夜着姿で部屋に入ってきたノエルさんは、まだ髪はそのままだ。

塔にほとんど人はいないと言っても、部屋にはヘレンさんがいた。

ヘレンさんはノエルさんが入ってくるのと交代で、

おやすみなさいと言って部屋から出て行った。


そうやって誰もいなくなった後、

髪をしばって上にあげてくれたノエルさんを鏡の前に連れていく。


「ねぇ、ノエルさん、自分の顔を鏡で見てくれる?」


「…見なきゃダメか?」


やっぱり、鏡を見ていないんだ。傷を見るのが嫌なんだろうな。


「うん、見て。私を信じてくれるなら、見てくれないかな?」


どうしても、確認してもらわなければいけないことがある。

じっと目を見て、ノエルさんの返事を待つ。

小さなため息をついて、ノエルさんがわかったと言ってくれた。


少しだけかがむようにして、鏡の前に顔を出してのぞき込む。

そのまま、時間が止まったように、ノエルさんの動きが止まった。

それを、話しかけることもなく、ノエルさんが戻ってくるのを待った。




どのくらい時間がたっただろう。

ゆっくりと、ノエルさんがこちらに振り返った。

信じられないという表情で、口が開きっぱなしになっている。


「見たよね?ね?ノエルさん。

 私って、ちゃんと薬師だったでしょう?」


胸を張って、そう言った。

自分の顔は見れないけど、きっと満面の笑みだったと思う。

答えが来るよりも先に、ノエルさんに抱きしめられていた。

腕の中にぎゅうぎゅうに閉じ込められている。

たぶん、ノエルさんは泣いていると思うから、

このまま閉じ込められていよう。

泣き顔を見られるのは、やっぱり嫌だよね。

私はよく見られている気がするけど、ノエルさんは嫌がると思うから。

泣き止むまで、ここで待っていよう。





しばらくして離してくれたノエルさんの目はまだ濡れていたけど、

泣き顔というほどひどくは無かった。

額の傷口だったところは、少し皮膚の色が薄く見えるけど、もう傷には見えない。

綺麗な濃い青の瞳がまっすぐに私を見てくる。

通った鼻筋や、少しだけ骨ばってるあごの線、

大人の色気が感じられて、なんだか気持ちが落ち着かなくなる。

後ろに流すように結んでいる髪も、

もう紺というよりも濃い青色に近づいているように見えた。

魔獣の毒が薄れて、元のノエルさんに近づいているのだろう。


「ありがとう、ルーラ。あの傷が治るなんて、思っていなかった。

 痛みがひいたとは思ってたんだ。でも、見る勇気なんて無かった。」


「…治ってきていたのは知ってたの。だって、毎日傷薬塗ってるんだし。

 でも、ちゃんと治ったって思うまで待つつもりだった。

 もっと早くに言えばよかったね。

 色が変わってるなんて、知らなかったから…。

 多分、このままいけば髪も目も元の青に戻ると思うよ。」


「…そうか。うれしいけど、複雑な気持ちもあるな。」


「複雑?」


「あぁ、なんでもない。ルーラは紺と青、どっちが良かった?」


「…?どっちって、どっちもいいよ?

 紺も青も綺麗だし、ノエルさんに変わりないし。」


そう答えると、また抱き上げらえれて、くるくると振り回されてしまった。

こんなに振り回されると目が回るんだけど~?

もう、これだけはやめてほしいって、後でちゃんと言わないと!



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