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***



「妃殿下、本日の晩餐は皇帝陛下とご一緒していただきます」



 結婚式からちょうど一週間後のことだった。

 あれから一度も会うことはなかったが、週に一度の食事の約束をヴァルトは忘れていなかったのだ。

 それが嬉しくて、フェルリナはみを浮かべる。

 結婚式の時はまともに話すことができなかった。

 けれど、晩餐の席ではもっとヴァルトと話がしてみたい。


「お手伝いさせていただきます」

「えっ……」


 いつもはフェルリナ一人でたくをしているのに、皇帝に会うからか、今日は侍女たちが控えている。

 てきぱきと用意をする侍女たちの中、リジアがフェルリナの方へ歩み出る。

 とっにフェルリナは胸を押さえ、後ずさった。


「いえ、あの、一人で大丈夫ですよ」

「いいえ。今夜のドレスはお一人で着られないデザインですので」

「で、でも……いやっ」


 フェルリナのていこうむなしく、かたから服を脱がされかける。

 しかし、ぴたっと手が止まり、リジアはフェルリナの体を見て大きく目を見張った。

 そしてすぐにフェルリナの服を肩にかけ戻し、控えていた侍女たちをかえる。


「妃殿下の着替えは私一人でお手伝いします。皆はしょうそうしょくひんの準備を」


 リジアの指示で他の侍女たちは部屋を出ていく。

 扉がしっかり閉まったのを確認してから、リジアはそっとフェルリナに話しかけた。


「妃殿下……これは?」

「あの、ごめんなさい。……人質なのにこんな傷があっては陛下にきらわれてしまいますよね」


 フェルリナはうずくまり、骨が浮かび上がるほどせている体をうでで抱えて懸命にかくす。

 しかし、王妃からの躾でむちたれた背中の傷までは隠せない。

 ガルアド帝国へわたるまでに治すはずが、作法の出来が悪く直前まで躾があったのだ。

 傷一つない綺麗な体で嫁げなかったことを、いつヴァルトや侍女たちに知られてしまうか、フェルリナはずっとおびえていた。

 不健康にしか見えない肉付きの悪い体をさらしたら気分を害してしまうのではないかということも。

 きっと、リジアもフェルリナのみにくさに声も出ないのだろう。

 

 知られてしまった絶望が身に降りかかる。

 けれどこのままでいるわけにもいかず、フェルリナはゆっくり立ち上がり着替えを手伝ってもらうことにした。

 リジアは難しい顔をしたまま、フェルリナにドレスを着せる。

 ドレスにえた後は、他の侍女たちも加わって、化粧や髪が整えられていく。


「……ここに来てからは、リジアさんたちが美味しい食事を用意してくださっているので、これでも肉付きがよくなった方なんです」


 気まずい沈黙に耐え切れず、フェルリナは言い訳をするように話す。

 せめて痩せているのはリジアたちのせいではないと伝えたかったのだ。

 そんなフェルリナを見て、リジアが慎重に口を開いた。


「妃殿下、いつも食事を大量に残していたのは、ガルアド帝国の食事を嫌がっていたからではないのですか……?」

「えっ!? あんなに美味しい料理を嫌がるはずがありません!」


「では、妃殿下がもう食べられないと言っていたのは、嫌みではなく、本当に食が細くて食べられなかっただけ……? 私は、とんだ勘違いを……」

「リジアさん?」



「妃殿下、申し訳ございません!」



 何故か、リジアに深々と頭を下げられた。


「え……?」


 一体何の謝罪なのか分からない。

 謝るのはフェルリナの方ではないのか。

 周りの侍女たちも戸惑っている。

 何がなんだか分からず、フェルリナは「頭を上げてください!」と慌てて声をかける。


「私は、ルビクス王国の王女だというだけで妃殿下を誤解しておりました。初日から妃殿下をないがろにしてきたことを心から謝罪いたします」

「……えっと、何のことでしょう?」


 フェルリナには侍女たちから謝罪される心当たりが全くないため、混乱する。

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