第3話 煙草

秋の夕暮れ。色付いた葉がはらはらと肩に舞い落ちる。

軍の中にある売店で、煙草を買った。


「敷島は高いから、山櫻が口に合う」


先輩は煙草の箱の隅を破り慣れた手つきで一本降り出すと、口に咥えてマッチを擦り火をつけると苦々しく笑っていた。

私である自分も、山櫻を選んだ。


初めて吸う煙草は苦くて煙くて、だけどゆっくり香りを味わう。


それは、土と汗が混じった先輩の香りだった。夕焼けが広がる空を見上げて、全部肺に落とせぬ煙を吐き出す。


空に向かい舞う煙と赤い空の色合いが、自分を少し大人に見せていた。




夢から目覚めた私は、コンビニでタバコを買いライターで火をつけた。


明け方の空を見上げ、器官が弱い私はあの時の自分のように半分以上肺に落とせぬ煙を吐き出した。


煙なのか先輩を想ってか、涙が滲んだ。



貴方は、何処にいますか?貴方は本当に、存在したのですか?



サイパンで海に沈んでいる零戦を見て、まだ先輩の夢を見ていなかった私なのに、苦しくて涙が溢れた。




先輩。

日本は平和になりました。貴方が好きな絵を、描いていますか?

 

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