第1話 侵略

 少女は待っていた。この一週間ずっと待ち続けていた。そこは木造建築の室内だった。その部屋の中にレイウッド人の少女が一人いた。少女の外見は地球人に非常に近いが、耳が尖がっており、瞳の色はエメラルドのような緑色だった。地球人の年齢感覚ならば、十五、六歳に見えるのだが、レイウッド人は地球人よりも生命サイクルがわずかに長いため地球時間では二十歳ぐらいだろう。彼女は部屋の中央にあるテーブルに頬杖をつき、目の前にある通信機をじっと見つめている。通信機と言ってもかなり古い型なので亜空間信号で電文を送るぐらいしかできない。他の惑星文明と交流があるならば、普通はリアルタイム通信が可能な星系間通信機があるはずなのだが、この星にはないらしい。

「どうだ?」

ドアが開き一人の男が入ってきた。こちらもレイウッド人で、外見年齢は四十ぐらいだ。

「ぜんぜんダメ。」

男の問いに少女は首を横に振ってそう答えた。

「今日が連中の指定した七日目だ。あと数時間でゾディアンの軍隊が来る。やはりもう無理だな。」

男は諦めに満ちた声でそう言った。


 事の起こりは七日前。数人のゾディアン人が突然この惑星レイウッドに現れた。ゾディアンは爬虫類型の好戦的な種族で、侵略を繰り返し自国の領域を拡大し続けてきた。そして、この惑星レイウッドにもその魔手を伸ばしてきたのである。彼らはレイウッド人たちに七日以内にこの惑星から立ち退くよう警告した。さもなくば、七日後に到着する彼らの本隊が惑星上にいるレイウッド人を皆殺しにすると。幸いにもというべきか、不幸にもというべきか、現在この惑星のレイウッド人の人口は百人弱という極少数だった。しかし、その百人全員がまだこの星に残っているのである。

「今、話がついた。皆覚悟はできているそうだ。だが、せめてお前たち若い者だけでも・・・・・」

「ちょっと、待ってよ、父さん!諦めるのはまだ早いわよ!」

少女が立ち上がって怒鳴った。

「七日間、どこの国も動かなかったんだ。惑星連合からの返答すらもなかった。諦めるしかない。」

「でも・・・・・・」

「聞いてくれ、レティナ。どの〈文明〉〈国家〉〈民族〉にも必ず終焉は訪れる。人に死期が訪れるのと同じようにな。レイウッドにもそのときが来たんだよ。それにな・・・・」

男は窓に歩み寄り外を眺めた。

「奴等が来なかったとしても、レイウッドはそう長くなかったかもしれん。この星にはもう我々の村しか残っていないのだからな」

レイウッドも三百年ほど前までは繁栄し力に溢れていた。しかし、多くのレイウッド人たちが他の文明の魅力に惹かれ宇宙に出て行くうちに過疎化が進み、百年前、ついに政府が解体された。そのため、過疎化にさらに拍車がかかり、この星に住むレイウッド人はとうとうこの村の住人たちだけになってしまったのだ。

「潮時なんだよ。だから、私はレイウッド最後の自治体の長として、レイウッドの歴史に幕を下ろそうと思う」

少女、レティナは父の言葉を静かに聞いていた。言いたいことがないわけじゃない。けど、言葉にならない。言っても何も変わらない。自分にはどうすることもできない。そんな悔しさと苛立ちが彼女の心をしめつける。彼女の心の中に一度拒んだ諦めの気持ちが形を成しはじめたとき、唐突に扉が開いた。村の青年だった。ひどくあわてた様子だ。そして、この村にシャトルが近づいてきていると大声で告げた。

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