ガンバレますくちゃん〜貧乏フリーライター奮闘記

まめまめ

第1話 仕事を辞めた!

安っぽいドアベルを鳴らしまくった。


ピピピピピピンポーン!


今は夜10時。

普段の私なら寝ているところだが、今はそれどころではないのだ。


「うるさいっ! 今何時だと思ってるんだっ!」


そちらこそ何時だと思っているんだ、というバカでかい声。

私は怒鳴られているのだが、心には喜びがじんわりと広がっていた。


「みくちゃんっ!」


久方ぶりに聞く妹の声。

なんとありがたいものか。

思わず私は、妹の小さな身体に抱きついたのだった。


〜〜〜〜


「はぇーなるほどね。仕事やめて家も解約してきたわけ」


妹、みくちゃんの汚い部屋で、テーブルを挟んで向かい合って座る。

机上のプラスチックトレーが目に入る。

こやつ、またコンビニ弁当で夕食を済ませたな。


「正確には、家を解約してから、仕事をやめてきたんだよ。みくちゃん」


はぇー、と気の抜けた返事をするみくちゃん。

そこらに転がっていたフリーペーパーを手で弄ぶと、ふと我に返ったようにこちらを見る。


「え、じゃあこれから生活どうするの?」


「だからここに来たんだよ。しばらく一緒に住まわせて」


それから私は妹に弁明を繰り返す。


毎日働く妹のために家事全般やること。

貯めていたお金はちゃんとあるため、生活にかかる費用の半分は出すこと。

通販で買ったものの受け取りも引き受けること。


極力妹のメリットになるようなことを強調してみる。


もとよりみくちゃんは私を追い出そうという気もなかったらしく、すんなり承諾してくれた。


「ま、いいけど。でもさ、仕事どうするの?」


ぐさっ。

何かが刺さる音。


仕事を探さなければいけないのはわかっている。

わかっているのだが、現時点できちんとしたところに務められる自信がない。


そもそもスキルも経験もないし、このご時世に私など雇うところがあろうか。

いや、ない。


「おにい顔は可愛いんだからさ。パパ活やればいいじゃん。パパ活」


「なっ、おい、みくちゃん!」


このメスガキ、なんてことを言うのだろう。

だいたいパパ活とは言ってもそれが性行為に及ぶのであれば売春防止法に違反するし適法に業として行うのであれば風俗営業の許可や届出をしていなければならないのであって……


〜〜〜


「おにいの法学部オタク知識、落ち着いた?」


思いつく限りの言葉をまくし立てた。

つい話が法律に及ぶと、知識をひけらかさねばという意識に駆られてしまう。

これは私の悪癖であった。


まだ私が妹と頻繁に会っていた頃は、こうしたやりとりは日常茶飯事だった。

一連のやりとりはそれを思い出させてくれ、自然と笑みがこぼれる。


「……やっと笑ったね」


「え?」


妹が、突然穏やかな表情でそんなことを言った。


「おにい、ここ来てからずっと難しい顔してたから。……仕事辞めたの気にしてるんでしょ」


妹は、そうしてあっさりと私の胸の内にぐるぐると渦巻いていたものを暴いてしまった。

そうだ。


なんでもないような顔をしていたけれど、本当はずっと気になっていたんだ。

こんな世の中で仕事を辞めるなんて、まともじゃないと思っていたし。

私は、おかしくなってしまったのだろうかと。


打ち明けると、妹はまた、調子を戻したようにがさつな笑い方をした。

まるで、私の不安を吹き飛ばそうとでもいうように。


「仕事なんか辞めちまえばいいじゃん。おにいが元気でいてくれるのが、私は嬉しいよ」


しばらく家事よろしくね、と言われ、私は無事寝床を確保できたのだった。

でも一番、私は言って欲しい言葉を言ってもらえた。

そんな気分だ。



さて、ここまでは良いとして。

我が妹は夜も遅いというのに、酒を飲んでいるところだったようだ。


「みくちゃん、何をつまみに飲んでるの?」


「コンビニ弁当……だったけど、さっき食べちゃった」


あ、おにいも飲む?と立ち上がろうとする妹。

じゃあいただこうかな、という気になった。


みくちゃんと酒なんて、ほとんど飲んだこともなかったのだ。

今日は節目の日のような気がしたし、付き合おうと思う。


ついでに、おつまみでも作ってあげようじゃないか。


「自分で取ってくるよ。ついでにみくちゃん、キッチン借りるね」


しかしながら、さすが、がさつ女。

冷蔵庫にほとんど何もないではないか。


唯一残っていた半分の豆腐であんかけ湯豆腐を作ってやり、みくちゃんに出した。


「おおーおにい、やっぱ料理上手じゃん。私の旦那様やんなよお」


すっかり酔っ払いのみくちゃん。

私が料理している時も飲んでいた様子がうかがえる。


そういえば、妹は酒豪でいつまでも酒を自信に注ぎ足しながら、こうやってべろべろになっていくんだ。

それがなんとなく嫌で一緒に飲むこともなかったんだっけ。


でも今は、そんなことが胸に染みる。


妹はブリッジしながら、ストローで焼酎を飲んでいる。

あまりにバカバカしいその姿に、思わず笑った。


涙が出てきたのは、きっと笑いすぎたから。



☆★☆



【ますくちゃんの節約料理教室】


今回は、ますくちゃん(まだ増子りくですが)が作ったあんかけ湯豆腐のレシピです。

簡単に作れて、冬はほっこり暖かな和食レシピ。

使う材料は豆腐と調味料だからとっても安くておすすめですよ!


<材料>

お豆腐……150gくらい

☆本だし(顆粒)……小さじ1杯

☆水……100ml

☆みりん……小さじ2杯

☆醤油……小さじ1杯

水溶き片栗粉……(小さじ1杯の水に小さじ1杯の片栗粉を溶かしておきましょう)


<手順>

①お豆腐は食べやすい大きさに切って、沸騰したお湯で2〜3分煮ます。


②お豆腐は取り出して、器に盛り付けておきます。


③あんかけをつくります。

 ☆を小さな鍋に入れ、煮立たせます。

 一度火をとめ、水溶き片栗粉を鍋にぶちこんだら手早く混ぜましょうね。


④②で盛っておいたお豆腐に、③で作ったあんかけをかけます。

 完成!


<ますくちゃんのワンポイントアドバイス>

調味料は味見をしながら、お好みで調整していきましょう!

あんかけに小ねぎを刻んで入れると彩りも◎


寒い時期はお豆腐にすりおろし生姜を乗っけておくと、身体が温まります!

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ガンバレますくちゃん〜貧乏フリーライター奮闘記 まめまめ @mamemame-love

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ