ケンチは購入する

 リオが賢一の元を去って、どれくらいが経っただろう。

 交際を始めた最初は順調に思えた赤い糸の相手の女性とも、次第にすれ違いが増えていった。なかなかお互いの予定が合わずに会えない日が続き、連絡もどちらともなく取らなくなったある日、相手の女性から連絡が来た。赤い糸を解消してほしいと。賢一はそれを受け入れた。賢一自身もそうすべきだろうと思っていたところだった。そうして、賢一と女性はそれぞれ別々に役所を訪れて、赤い糸の解消の手続きを終えた。

 いつの間にか、賢一はまた以前のように仕事に対しても無気力さを感じはじめていた。


「まったく自分が情けないな……。リオがしてくれたことが全部無駄になってしまいそうだ……。」


 せめて仕事だけは頑張らなければ。またいつか偶然にでもリオに会う機会があった時に、胸を張ってリオの顔を見ることができない。リオはこの空の下のどこかで今も、自分と同じような誰かの心を治療しているに違いない。賢一は現在のリオのことを想像するたびにとても苦しい気持ちになった。



 ある時、賢一の端末にロボットネットワークからダイレクトメールが届いていた。


『あなただけに特別なオファーです。』


 普段だったら開きもしないような題名のメールだ。しかし、ロボットネットワークからダイレクトメールだなんて今まで来たことがない。リオを賢一の元に派遣したあのロボットネットワークだ。賢一は内容がとても気になった。


『パートナーロボット販売開始のお知らせ。』


 パートナーロボット……。ロボットをパートナーにというのは、あの時に自分がリオに言ったことだ。あの要望が実現したんだ。そうか、実現したんだ……。

 賢一は更にメールを読み進める。そして……、パートナーロボットの案内を見て、賢一は迷わず購入ボタンを押したのだった。



 その日、賢一の部屋のベルが鳴った。賢一はこの日をずっと待ち詫びていた。


 ピンポーン!


「こんにちは! リオです! この度はご購入ありがとうございます、ケンチ!!」

「リオ!!」


 何度夢に見たことか! 賢一は目の前のリオを抱きしめる。


「ケンチ! リオはあなたの物になりました! これからずっとよろしくね!」

「リオ! もう離さない! 愛してるんだ!」

「私もケンチのこと愛してるよ!」

「それは本当?」

「ううん。私はロボットだから、今のもプログラムされた言葉だよ。……こんな私だけど、ケンチはいいの?」

「いいに決まってる。そんなリオがいいんだ!」


 リオは泣きそうな笑顔を浮かべたかと思うと、賢一にキスをした。数ヶ月前まで二人で暮らしていた賢一の部屋はそのままになっていた。リオは自分の居場所を懐かしむように部屋の中を見渡したあと、部屋に敷かれたままになっていた布団を見てしょうがないなぁと言うとその布団の上に座った。そして、賢一を手招きする。


「ほら、もう私はケンチの物なんだから、好きにしていいんだよ。パートナーロボットとしてバージョンアップもしたんだから。……さっそく試してみたいでしょ?」


 賢一はリオに誘われるままにリオの体に触れた。リオのおっぱい。もうリオの全てが自分のものだ。


「ケンチ、いっぱい私のこと愛してね。私がケンチのことを幸せにしてあげるからね。」


——終わり。

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リオ——私はロボットだから心が無いの。あなたが望むなら好きにしていいよ。 加藤ゆたか @yutaka_kato

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