第22話 地異

運命をかけた弾が発射された。


「頼んだぞ! 今はあいつだけが頼りだ・・」


俺は直ぐに大岩の影に腹ばいになって爆発に備えた。


そして静かに目を閉じたが、逆に目を瞑っている方がギズモの

送ってくるビジョンがはっきりと見える。


映しだされる景色の中で山並みが小さくなっていくことで

ドローンがぐんぐんと高度を上げていることがわかった。


次の瞬間だった!


ギラッ!!!


カーテンを開けて暗い室内からいきなり太陽を見た時みたいに

強烈な光が眼に飛び込んできた。


ビガ――――ッ!!


本当にもう一つ 別の太陽が出現したようだった

そして真っ白い強烈な光は増々、強くなっていったんだ。


その上一瞬だけど、なんか奇妙なことに空間そのものが歪んで感じられた

ビジョンでさえ何も見えない、ただまっ白いだけのシーンになった。


スーパーノヴァ弾の着弾地点 

つまりグランドゼロでは重力崩壊による大爆発により

強大なエネルギーが解放されて、核兵器を超える

高熱と閃光が発生していた。


もちろん、集結していたチャンシーの大部隊は

その爆発に巻き込まれて戦車だろうが、攻撃機であろうが

次々と蒸発したり、吹き飛ばされたりしたろう。


俺は無意識に身を丸めた! 来るという予感があった。


シュパ~ルベ~~! ドォーーーン!


直後にとてつもない衝撃波が襲ってきた

何十tもありそうな大岩でさえ転がりそうな強烈な気流だ

指向性で爆風とかはこっちにはあまり来ないって話だった

んだけどそれでもこの威力だ。 


閃光が収まり、ギズモドローンからの映像が回復した。


ジュゴワワ~~ ズズズ~~~ン!


ここまではネットなんかにもよく載っている核兵器による

爆発シーンとそれほど大差なかった。


だけどこの弾にはそれだけじゃはない、もっととんでもない

副次効果があったんだ。


爆発の破壊力はとてつもないもので、ラム波による巨大な

衝撃波により周囲の木々は根こそぎ吹っ飛ばされていった。


バババァキュ~~ムゥ~ン!!


その衝撃波が収まると、今度は周りの大気が

吸い寄せられている感じがした。


つまり爆心地に向けて、轟轟と大気が渦を巻いて集まっているんだ

そのうちにドス黒い爆炎や土煙などが一体となって、みるみる大きな

気流の渦に成長していくのが見えた

それは、まるで真っ黒い大きな龍が昇天していく様だった

そして、最後にはとんでもなく巨大なトルネード/竜巻が発生したんだ。


竜巻は、周囲の倒れた木々や瓦礫や戦闘車両の残骸などを

巻き込みながらゆっくりと動きはじめた。


集結していた装甲部隊の後方にチャンシーの大きな基地が

設営されていたんだけど、巨大竜巻はその基地の方向に

まるで進撃する意思が在るかの如く向かっていったんだ。


数万人規模の巨大な基地に第一波として爆発による衝撃波が襲った


それでも、大量の強化建材やコンクリートで固められ

電磁的なスクリーンやトーチカで守られていた基地は

衝撃波によって窓ガラスが砕け、通信アンテナや車両などは

吹き飛ばされたが、ほとんどの施設は持ちこたえていた。


だけど、その後にこの巨大竜巻が襲い掛かったんだ。


ズギュギュゴォォォーッ! ガビャァーン! 


凄まじい突風の中で、激しく雷(いかづち)が煌めく!


衝撃波でなぎ倒されていた木々が一旦、渦に吸い込まると

今度は次々と地上に叩き付けられて、竜巻の破壊力を増した


パリィ!バリリィ! 


更に渦巻く黒雲からの雷撃は激しさを増してチャンシー基地に

凄まじい雷撃の嵐となって撃ち掛かっていった。


それは、まるで何十機もの大型爆撃機が一斉に爆弾を

投下しているような破壊力を示していた

叩き付ける礫弾が変電や送電施設を破壊し、燃料備蓄タンクに

穴を開け、中から燃料が漏れだした。


バリリィ! ドォグゥアバーン! グォーー!


そこに無数の雷撃が落とされ、大爆発を起こした

そして、その爆発は備蓄されていた弾薬やミサイル等の推進剤の

誘爆を引き起こし、チャンシー基地全体が紅蓮の炎に包まれたんだ。


こうして、チャンシーの巨きな基地は完全に破壊されてしまった。


「すげぇ~!凄すぎる めっちゃんこ凄ごいぞ!

え~?? だけどなんであんなでっかいトルネードができたんだろ

偶然にしちゃできすぎてるよなぁ・・?」


その時、また言葉が浮かんできた。


"絶対真空"


「へぇ? 絶対真空? どっかで聞いた言葉だな


どこだったっけ? あっ そうだ! 

高校の時に入ってた地学クラブで聞いたんだ」


不意に天体観測したり天気図作ったりした思い出と

共に真空について学んだことを思い出した。


絶対真空って、確か物質も原子ひとつもない完全な

真空状態だったよな

だけど理論上で現実には存在してないはずだ。


まさか、あの弾の爆発で絶対真空が作られたのか!?


ひょっとすると爆発によって局所的に絶対真空になり 

その周りが宇宙の平均密密度より低い空間が作り出されたら・・

そこは恐ろしく気圧が低くなるはずだよなぁ」


気圧が下がったからどうだっていうんだ? 

低気圧なんて別に珍しくも無いよ


そういう人もいるかもしれないけど

よくアクション映画とかで、飛んでるジェット旅客機の

ドアが開けられたり、機体に穴が開くシーンとかあるね。


加圧されていたキャビンからすごい勢いで空気が外へ

吹き出し行って乗員が吸い出されたり、下手したら機体が

壊れて墜落する、あれと同じことが起きるはずなんだ。


俺は天文気象の知識を総動員して、この現象を必死に考えてみた。


まず超爆発によって、局所的(すごく小さい空間)に

真空の場が作られる


その後、失なった大気を埋めるために周囲の大気が流れ込む


近傍の大気にとんでもない気圧の差と大きな温度勾配が発生


そこに爆発による高熱で発生した上昇気流が加わり

強力なトルネードを生み出す


更に大気摩擦によって蓄えられた大きな静電気は

落雷となって地上に放出される


「なんてこった! あのスーパーノヴァ弾は爆発力で

目標を吹っ飛ばすだけじゃなくて、陰謀論者たちが

大好きな"気象兵器"としての効果も併せ持っていたんだ!


まず高熱と閃光、そして爆発力で目標を破壊する


続いて、発生した衝撃波で辺りをなぎ倒す


最後にトルネードを発生させて止めを刺す


むむぅ~っ! なんて凄い兵器なんだろ・・」


俺の放った、たった一発の弾が前方の見渡す限りの

広大な場所をほとんど更地にしてしまったんだ。


ポツーンと突っ立って、その荒野に吹き巻く

風の音を聞きながらフッと我に返った。


「いま俺は・・猛烈に腹が減っている・・・」



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