第2話:見知らぬ男からの求婚

※※※


 私は謁見の間から出るまでは乱暴気味に腕を掴まれていたのだけど、その部屋から出ると騎士たちはいきなり私に向かって床に膝をついた。


「申し訳ございません。とんだご無礼を働いたことお許しください」

「いえ……あなたたちはエリーゼ様の命令に従ったわけで何も悪くありませんよ?」


 私は彼らを安心させるようににっこりとほほ笑む。


「うわー天使の微笑みだ。気持ちが優しくなる」

「やはり、これがお力なのだろうか……」


 騎士たちはうっとりと私を見つめているが、そんな崇められても私は今何もしていない。


 思い込みって怖いわー。

 それともこれが本来の力ってことなのかしら?


「あの……それでわたくしはどこへ行けば?」

「あの地下牢へと……すみません。すみません」


 若い騎士がひたすら平謝りをしてくれているが本当にやめてほしい。こちらが申し訳ない気持ちになってしまう。


「大丈夫ですから。ご心配なく。それではご案内を頼めるかしら?」

「はい。喜んで」


 ここでの返事としては反応がおかしいのだろうけど……

 そんなことを突っ込んでいる場合ではなかった。

 早く次の予言をしてこの状況を打開しなくてはならない。


 こうして地下牢へと入れられて私は監禁されるのだろうと思っていたのだけど、実際は監視もいないし鍵もつけておらず、ご丁寧に鉄の柵までも大きく開けて「出て下さい」と言わんばかりである。


 挙句の果てには逃げやすいように飲み物や武器など入った荷物まで置いてくれている状態だった。これはもう今から逃げろということなのだろうけど……


 逃げても両親たちが処刑されるだけである。なので他の方法がないか予言しようと考えた瞬間、私の目の前には見知らぬ男性が立っていたのであった。


 この国には珍しい黒髪に吸い込まれそうな茶色の瞳を持つ見たこともない衣装を着た男性が目の前に立っていたのだった。


「あなたはだれ?」

「質問に答える意味あるかな?」


 彼の言った意味を理解し、目を閉じる。


「……異世界人?」

「そうだよ。今度こそ結婚しよう」

「いえ……あの……」


 私は動揺を隠せない。だって知らないこの人と幸せに暮らす未来が見えたんだもの。でも自分の知っている世界とは全く違う。鉄の馬車、素肌だらけの衣装、塔のように高くて大きな建物が並んでいたのだった。


「さぁ、僕の運命のパートナー」


 彼の声に導かれるように自然と手が伸びていた。

 彼の手を取ろうとして出した右手を慌てて引っ込める。


「予言はしましたのである程度理解できたつもりです。ですが、この世界には私が必要なのです」

「そうだよね。君は聖女様だものね。ならあのキモ王子と結婚するの?」

「それは嫌です。本当は生理的に無理でした……あのニヤけた顔が受け付けないのです」

「ならどうするの?」


 彼は私に優しく問いかけると、私は予言もしていないのにこの国が炎に包まれている光景が脳裏に焼き付く。


「どういうことよ!!」

「ハハハ。これは僕が見せてあげたこの国の未来だよ。僕と結婚するって言うなら救ってあげてもいいけど?」


 ニコニコと素敵なスマイルを浮かべているのだけど、悪魔のように恐ろしくも感じてしまう。なのに、その魅惑な表情に思わずドキッとしてしまった。


「……どうやって?」

「やり方は僕に任せてもらわないと困るね。だってチートだもん」

「チートって何ですの?」

「あぁ、もう面倒だから何も言わずに見ててね?」


 片目を潰るその姿はもうカッコよすぎてクラクラしてしまいそうだった。

 こんな気持ちは初めてで頬が熱くなるのを感じていた。

 そのとき大勢の足音が聞こえてきた。


 彼がいったいどうするのか見ているといつの間にか彼の姿が見えなくなってしまっていた。私は驚いて眼を白黒とさせていると体全体が包み込まれるような温もりを感じる。


「えっ……あの……」

「今、君を抱きしめているんだよ。静かにしてね。僕のお姫様」


 耳元で囁かれたのでさらに体温が上昇するのを感じた。そんなことに気を取られていたため目の前に立っていたアルバートに気づくことが遅くなってしまう。


 アルバートは私を申し訳なさそうな顔で見ると、静かな声で言った。


「マリン、君の処刑が決まった」

「えっ?」

「すまない。君を守れなくて……」


 アルバートは私の幼馴染であった。彼にこんな顔をさせてしまう自分が悲しい。


「ごめんね、アル。私……」

「おい、僕のお姫様と気安くしゃべるんじゃない!!」


 突然、私しかいないと思っている監禁室から男の声が聞こえたアルは咄嗟に鞘から剣を抜き構える。


「アル……大丈夫よ。ほら、剣を収めてよ」

「マリン何を言っているんだ。ここには君以外誰かいるのかい?」

「いや……あの……」


 私は静かにすると約束した手前、アルに本当のことを話せない。アルは冷や汗なのか、額に汗を滲ませ警戒している。


「あぁー!! もう僕のお姫様が他の男と話すとか嫌なんだけど? 僕って嫉妬深い男なんだよ? 君を探すまでどれくらいの世界を旅したと思っているの?」


 そのイライラしたような声とは真逆に私を包み込む腕は優しいので私は戸惑いを隠せない。


「……なんかすみません」

「いや……違うんだよ。あーごめんね。こんなんだから君を毎回逃がしてしまうんだろうね」


 アルは困惑した顔で私に訊いた。


「さっきからマリンは誰と話しているんだ。君に危険があったら……」

「僕のお姫様を危険にさらそうとしているのはお前の方だろ!!」


 彼の怒りの声に合わせるかのように、アルは急に倒れこんでしまったのだった。


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