銃のオッサンと半透明の私

一陽吉

オッサンと私とそれから……。

 あれ?


 私、眠ってた?


「ふははははは、はーははは!!」


 あのオッサン、何をそんなに笑ってるの?


 ていうか私、浮いてない?


 二メートルくらいの高さから見下ろしてる。


 ……!?


 てかじゃん!


 ビルの壁にもたれかかるように倒れてるの、金髪ポニーテールで黒の革ジャンに白のインナー、青のデニムパンツにスニーカーを履いた、私だ。


 しかも白のインナーが撃たれたみたいに血で汚れてる。


 口から血を流して目も閉じてるし、えっと、死んだ?


 じゃあ、この私って……。


 あ!


 素っ裸の半透明じゃん。


 幽霊? 魂? 精霊?


 いずれにしても私、死んだんだ。


 なんで?


 いつ?


 どうやって?


 ……。


 右手に回転式のでっかい銃を持ってるな、あのオッサン。


 年は四十代くらいで、西部劇の保安官みたいな黒のスーツを着てるけど、身長は二メートルくらいあって筋肉むきむきなかんじ。


 大男ってこれ、みたいな見本状態なんだけど、他には誰もいない。


 誰もいなくて、銃を持ったオッサンがいて、私が倒れているんだから、このオッサンが私を撃った?


 あ~~、まって。


 記憶が混乱してる。


 こういうときは順番を追っていった方がいいのよね。


 まずここは廃棄都市。


 この世界と異世界とをつなげる実験に失敗して、境い目が不安定になって、向こうから凶暴なやつが降ってくるようになった、かつての地方都市。


 住んでた人は全員、よそへ移って基本的に誰もいない。


 いるとすれば始末屋、狩り屋とか呼ばれてる国に雇われた能力者。


 異世界からくるやつは魔獣みたいなのがほとんどで、とにかく暴れるからやっつけないといけないんだけど、攻撃や防御に魔力を使うから、銃や爆弾では効果が薄いし、戦車なんかも吹っ飛ばすから軍隊じゃ相手にならないんで、高い報酬を払って倒せる人間に仕留めさせているのよね。


 だから、まわりのビルはその傷跡で壊れまくっていて、瓦礫が散らばってる。


 そして私は──。


 あれ?


 どうしてここにいるんだっけ?


 私も能力者だから?


 だったら何の能力を持ってるの?


 うーん。


 思い出せない。


 そもそも何で死んだの?


 まさか、オッサンと獲物の取り合いをして撃たれたとか?


 でも、政府機関の精霊を宿しているから、悪いことはすぐにバレるはずだけど。


 て、考えているうちにオッサン、私の身体からだを右肩に担いだ。


 ちょ、ちょっと、どこへ持っていく気。


 ストップ、ストップ!


 ダメね。


 オッサン、私が見えていないようで、スルーした。


 仕方ない。


 このままついていって、どうするつもりか見届けるわ。


「──もう来やがったか」


 呟きながらオッサンは空を見上げた。


 来た?


 何が?


 見ると、曇り空から三本の光線がオッサンから十メートルくらい離れたところに落ちて弾けた。


 そこから人が現れたけど、これは異世界人。


 魔獣以外でたまにやって来る異世界の住人だ。


 まあ、やることは魔獣と一緒で暴れまわるから仕留めなきゃいけない。


 中世ヨーロッパの騎士とかが着てたような全身甲冑の姿で、身長は百七十センチくらいはある。


 背はそこそこだけど、防御力はあるわね。


 だけど手に持ってるのは剣じゃなくて、銃?


 えっと、古い銃はマスケットて言うんだっけ?


 そんな風に見えるけどなんか違う。


 何かは分からないけど。


「ち、めんどくせえ」


 するとオッサン、私の身体を担いだまま、回転式のでっかい銃を左手に持って撃った。


 ドム! ドム! ドム!


 一人の胸や同体に命中。


 重くて低い銃声から威力が強いってのが分かる。


 これじゃあ鎧も貫通して──、て、ええ!?


 たまがあたったところから侵蝕するようなかんじで、!?


 あ。


 そういえばオッサン、異世界人に対して消滅させられる弾を使うんだっけ。


 と、味方がやられて残りの騎士もマスケットを構えた。


 パシン! パシン!


 軽くて乾いたような銃声。


 ていうかこれ火薬を使ってない。


 魔力だ。


 魔力を弾にして撃ってるんだ。


 それをオッサンは、右へ左へスウェーするみたいにしてかわした。


 かわしたって言うのは簡単だけど、オッサン、身体はでかいし私も担いでるのに、なんでそんな機敏に動けんの?


 ドム! ドム!

 ドム! ドム!


 その隙をついて撃つオッサン。


 さっきのやつみたいに、撃たれた二人は消えていった。


 どうなるのかと思ったけど、あっさりやっつけた。


「で、本命の登場ってわけか」


 本命って……、オッサン。


 うん?


 なんか太い光が降ってきた!


 バ─────────────────ン!


 うわっ。


 道路に落ちて、光の粒がめっちゃ飛んでる。


 そんでそこから出てきたのは、巨人の騎士……。


 全身甲冑なのは同じだけど、身長が三メートルくらいあって瘦せ型だから、よけいに細く高く見える。


 しかもマスケットじゃなくて剣を持ってる。


「威力、最強だな」


 そう言うと、オッサンの銃のシリンダーが一回転して止まった。


 意思を受けて、自動的に装填されるんだっけか。


 オッサン、銃魔じゅうまっていう魔物を宿していて、銃や弾を作ったり再装填したりできるんだ。


 あれ?


 私、何で知ってるんだろう。


 ドオォーン! ドオォーン! ドオォーン!


 反動を抑えながら撃つオッサン。


 でも巨人の騎士。


 剣を振ってオッサンの撃った弾を全部受け流した。


 幅は広くないけど私の身長くらいある長さの剣で。


 マジか。


「ちぃ」


 オッサン、あらためて撃つけど結果は同じ。


 ……。


 よく見るとあの剣、うっすらとオーラがある。


 あれが消滅の効果をなくしてるんだ。


 剣が弾に触れても消えないのはそういうことだったんだ。


 そうやって、一歩一歩ゆっくり近づいてくる巨人の騎士。


 やばいぞオッサン。


 何とかしないと斬られる。


「仕方ねえ。キイ、ひと暴れしてこい!」


 て、オッサン。


 私の身体を巨人の騎士に投げた!?


 ば、ばばばばばばばば、バカ!


 それじゃ私の身体が真っ二つに──。


 わ。


 私が吸い込まれる……。


 ギュルン、ギュルン、ギュルン、ドーン!


 え、なに、空中で剣をかわして、その腕をつたってつたって、巨人の騎士にパンチした!


 ちょっとまって。


 私、何にもしてない。


 身体が勝手に動いてる。


 でも視線は私の身体からのもの。


 戻ったのは間違いないけど、意志が反映されてない。


 スタッときれいに着地する私は、なんか、誰かがやってるゲームを見ているかんじ。


 全然、自分のこととは思えない。


 それに、乙女のパンチで金属の甲冑を着た巨人をぐらつかせるなんて、ふつうは有り得ない。


 その右手だって魔力をのせたものだから痛くないし、傷一つない。


 あ、巨人の騎士。


 体勢を直して剣を振り上げた。


 私の身体、両手を道路につけて何か力を込めてる。


 いや、ここは避けるところでしょ。


 うわ、やばい!!


 ブワワワワワワワワワワワワワワワワワ─────────────────!


 これは……、聖獣。


 虎やライオン、狼なんかの姿をした聖獣たちが私の両手からできた魔法円から次々と出てくる。


 それも、とにかくたくさん。


 何百て勢い。


 なんかミサイルをマシンガン並に撃ってるかんじ。


 オッサンの撃った弾を受け流した巨人の騎士も、ぶわっと押し寄せる聖獣の群れに対処しきれいてない。


 斬られなかった聖獣がどんどん巨人の騎士に嚙みついて動きを封じていく。


 聖獣っていっても私が作った精霊で、生き物じゃないから肉体がない。


 やられても消えるだけ。


 それに、引き離そうとしても牙だけ実体化してるから掴むことはできないしね。


 だから巨人の騎士はとにかく身体を振って聖獣を落とそうとしてる。


 無駄だけど。


「あばよ」


 ドオォーン! ドオォーン! ドオォーン!


 オッサンの声の後に三発の銃声。


 巨人の騎士は聖獣が身体について動きが取れないから真っ直ぐに着弾した。


 そして、そこから無が身体に広がっていくように侵蝕していって消えた。


 聖獣も一緒に消えたけど、それは別にどうってことない。


 ……。


 そう。


 そうなんだ。


 身体に戻って、聖獣を使って、私は思い出した。


 私はキイ。


 聖獣使い。


 この能力を使ってあのオッサンと始末屋をしてたんだ。


 だけど私は不意をつかれ異世界人に撃たれた。


 瀕死のところをオッサン、ジオが自分に宿してる銃魔の一部を移植して助けたんだ。


 あのとき大笑いしてたのは、移植が成功したうえに変化したから。


 だって、以前の私じゃこんなマシンガンみたいに聖獣を出せない。


 うん?


 でも待って。


 だったら別に私の魂? が出ることないんじゃない。


「よし、もういいぞ」


 あら。


 ジオが言うと、また私が身体から出た。


 身体も力が抜けて、右に倒れた。


 気絶、ていうか眠ってる。


 え、どうしたの?


「銃魔の影響が強いうちは魂を休ませようと動きだす。離れていれば銃魔は眠る。しばらくの辛抱だぜ」


 するとジオはまた私の身体を右肩に担いだ。


 じゃあなに、移植したばかりで銃魔は私を休ませようと勝手に動きだして、いなくなれば銃魔は身体になじむべく眠るってこと?


 まるでスイッチのオン、オフみたいじゃない。


「心配すんな。それまでオッサンが紳士的に面倒みてやるからよ」


 て笑ってるけど、面倒をみるってなに?


 食事とか、着替えとか、お風呂とか?


 ……。


 ……。


 ……!


 だ、だめ、ジオ。


 それはだめ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

銃のオッサンと半透明の私 一陽吉 @ninomae_youkich

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画