第21話 初代たちのオープンキャンパス①

 日曜日当日になった。莉花かりん綾人AYAは、大学の最寄り駅の改札口の手前を待ち合わせ場所にした。

 時間は受付開始時間よりも一時間半前に指定し、どちらかが電車に乗り遅れた場合の対策として、遅くなる場合はSNSへ書き込みをし、待つ方は時間が来たら改札を抜けて、駅構内の出口付近にあるコンビニ前で待つこととした。

 目印として、綾人は蛍光色の緑色のTシャツを着て、莉花はアイドルグループのライブで使用したデコレーションうちわを持って行く、と決めた。

 「『意外だったなあ……』」

 「『え?何が?』」

 「『かりんがアイドルのライブに行ってさ、デコうちわ、っていうやつ?を振ってるなんて』」

 「『そうかな?高一の夏休みに友達に誘われて参戦したのがきっかけなの。楽しいし、面白いよ!すっごく色々なモノが落ちる、あっ、やだ、落ちるだって!今のナシね』」

 「『二回も言ったよ。くわばらくわばら』」

 「『それより、AYAはそのTシャツで参加するの?考えた方がよくない?』」

 「『大丈夫。構内にあるコンビニのトイレで着替えて、外のコインロッカーに入れておくよ。かりんが持って来るデコうちわもそこに入れとけば?結構デカいんじゃない?』」 

  「『本当?有難う!そうなの。荷物になっちゃうな、と思ってたんだ!助かる~!』」

 そんなやり取りを前日にDMで行って、二人は定時に駅のホームへとやって来た。


 だが、双方とも、約束の時間通りに改札口近くまで辿り着いたというのに、それらしい相手の姿が見当たらない。

 遅くなる場合はSNSに書き込みを入れるはず、と、二人はスマホを取り出して、ネットに繋げるのであった。

 その場合はDMではなくて、表と呼ぶフォロワーたちも見える場所でやり取りをしようと決めていた。


 『かりん?自分は改札口の前に着いたよ。うちわ持ってる人、見えないんだけど。かりんは今、どの辺?』

 かりんはそれを目にして、キョロキョロと辺りを見渡す。

 『え?どの辺、って、私も今着いたところだよ。改札口の近くにいるんだけど。AYA?蛍光緑のTシャツだよね?そんな人は見当たらないよ?自動改札じゃない、駅員さんがいる近くの改札口のところに私はいるけど……』

 AYAはその文面を見るなり、駅員がいる窓口の改札の方を振り向く。しかし、うちわを持つ女の子の姿はどこにも見えない。

 『かりん、うちわを持っているんだよね?まだ改札を通り抜けてないよね?うちわって、なんて書いてあるヤツ?』

 『うん、改札は通ってないよ。もう~!分かるように持ってるの、恥ずかしいんだからね!「ユウ君!こっち向いて!ハートマーク」だよ!』

 『ソウルFULL MENS の勇希ユウキか……楽希ラッキでも元希ゲンキでも幸希コウキでもなく……』

 『え?何が?勇くんサイコーだよ!って、それより、おかしいよ?AYAらしい人が見えないの。Tシャツの色に注目してジロジロ見ているから、私不審者みたいじゃない……改札口の近くにはいないよ!AYAは北口に行ってないよね?あっちは駅員さんのいない改札口だもんね?』

 綾人も同時に同じことを思っていた。南口の改札口にしか駅員はいない。おかしい。自分は今、。にも拘わらず、それらしいがいない。大勢の人混みにかき消されているとは言え、目立つデコうちわを持っていればすぐに分かるはずなのに。

 『今日は三連休の中日だからさ、人混みが凄いんだと思うけど……おかしいな。自分、今、駅員のいる改札口のとこに来たよ。おかしいな。デコうちわの女の子なんて見えないよ?』

 莉花はスマホから目を離して、移動しながらキョロキョロと辺りを見回す。

 近くに来ていればすぐ見えるはずが、

 もう一度スマホ画面をじっと見つめた。AYAが奇妙なことを言っていた。

 『人混み?全然混んでないじゃない。それに三連休って何よ。二連休でしょ、って土日じゃない』

 綾人は受験生の癖に何を寝言を言っているのか、と思いながらスマホに文字を打つのだった。

 『かりん、何言ってんの?


 莉花は、何を寝ぼけているのだろう?と、マジレスしたら冗談の通じない子だと思われるかも?などと思いながらリプを打った。

 『AYAこそ何冗談言ってるの?天皇誕生日は冬でしょうが。それより、駅を間違えてないよね?』

 

 「え……かりんこそ何の冗談……?」

 綾人は思わずひとり言を呟いた。本日は日曜日で、でもある。明日は振替休日で休みなのだ。

 『天皇誕生日が冬~?そっちこそ、何言ってんの?今日でしょうが!』

 リアルタイムでタイムラインにフォロワーたちが見えない。日曜日の午前中には彼らは殆どSNSへはやって来ないのだ。深夜帯ならば、いつもならこの辺でミイミやさんちゃんやつぼんぬたちが茶々を入れて来るはずなのに。


 莉花と綾人は冗談を言い合っている場合ではないのに、とお互い感じていた。まだ受付開始時間には余裕があるが、何かが変だ。両者とも胸騒ぎがしていた。

 『自分は駅を間違えてないよ。カレンダーだって。あ、駅員さんのいる所にカレンダーがある!待って、今、スクショ貼るから』

 AYAはすぐにタイムラインにスクショを挙げた。

 「な、何、それ!」

 莉花はスマホ画面を凝視して、自分がいる場所と、AYAが貼り付けたスクショの画像とを見比べた。

 ……同じ場所だ!

 立っている駅員がなんとなく違うが、駅の改札口などどこも似たり寄ったりだろうが、カレンダーを写した画面には、ガラス越しに駅名や案内掲示板がいる。

 ただ一つ、異なる点は、いたのだ。


 カレンダーが……違う?

 莉花は、駅員さんに頼んで、同じ構図になるような写真を撮らせて貰った。勿論、カレンダーには赤い数字の数は少ない。明日は普通の月曜日であるからだ。


 スクショを貼る手が震えている。写真を撮らせて貰う時も震えていた。

 莉花は、慣れない手つきでタイムラインにスクショを挙げたのであった。

 AYAが写真を撮った構図に似せて莉花が撮った写真には、異なるカレンダーが写っている。

 一人で改札窓口に立っている駅員も微妙に違う。

 が、駅構内の画像は、全く同じが写り込んでいたのだった。

 

 

 

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