第20話 初代たち⑩

 『今晩は~!やっとノルマが終わった~!』

 翌日の夜、早めに課題を済ませ、かりんがSNSへやって来た。

 『お、お疲れ~かりん。おひさだね』

 久しぶりに、あまりネットには顔を出さない「にいちゃん」が既に来ていた。

 『え~!にいちゃんだあ!お久しぶり!珍しいね』

 『ふっふっふ……いっちゃんが塾で居残りでさ、さんちゃんは風呂なんさ。このスキに来ることに意義とスリルを感じる俺なんだよ』

 『……良く分からないけど、スリルなんだ……』

 『そうそう。いつ、いっちゃんが帰るかさんちゃんが風呂から出るか、どっちが先か!ってね。ん?なんかさんちゃんが風呂場で叫んでるけど、ムシムシ』

 『ちょっと~!お風呂で叫んでたら、なんかトラブってんじゃないの~?かりん、にいちゃん、乙~!捗りましてん?』

 ミイミがいつもよりも早めにやって来た。

 『ミイミ、乙~!やっと終わったよ』

 『おっす、ミイミ!どうせさんちゃんのことだから、バスタオルが無いとかパンツが無いとかそのヘンだよ。アイツはよくあるある』

 『そうならいいけどねえ?』

 『ミイミ早くない?』

 『早い。明日は雨降るよう~?』

 『にいちゃんもいるもんね。珍しいよね』

 『残ねーん。このにいちゃんは晴れ男なんだよね。だが、いっちゃんの雨男に相殺されてんだわ。さんちゃんが日和見ってんだよな。だから確率が中途半端なんだけど』

 『ふ……複雑な三つ子だわね』

 『バランスがいいのと違うの?』

 『バランスか?そうかな。まあ、さんちゃんがバランス取ってるかもな、あ、出て来た来た!んでは、俺はサラバじゃ!グンナイ!』

 『え、もう行っちゃうの?おやすみ!』

 『なんだよ、もう?つまんないの。おやすも~!』

 かりんとミイミを残して、にいちゃんがタイムラインから降りて行った。

 AYAは珍しく、かりんが現れてもすぐにはタイムラインに挙がって来なかった。



 『あれ、かりん、もう来てたの?』

 かりんが来て十分程遅れてAYAは現れた。

 『AYA!乙~!かりんが待ってたよっ』 

 『えっ』

 『えっ』

 『ちょっと?なんでかりんも「えっ」なワケぇ?AYAがいないね、って言ってたじゃん』

 『ミイミ、早いね。かりんも早いよね?』

 『うん、昨日と一昨日で頑張ったから、今日のノルマは早く終わった!』

 『そうなんだ、それは良かった。お疲れ~!』

 『あらぁ?私お邪魔かしらぁ?』

 『何言ってるの、ミイミ?』

 かりんはドキッとする。AYAが男の子かもしれないのだ。意識してしまう。

 『ミイミがいるからいいんじゃん。潤滑油だよね?かりん?』

 『ちょっとちょっと~!脂ぎってるみたいじゃん?魚の脂は好きだけどさあ』

 『え、ミイミ、魚の脂が好き、って……』

 『あら、やだ誤解しないでよ、大トロ大好物なの、って意味なんだから』

 『ああ、なんだ。オイルサーディンとかアンチョビが好きなのかと思った』

 『それを食べたことないから分からないねえ。美味しい?』

 『う……人によると思うよ』

 『私は好きじゃないなあ。クセがあるの』

 『ふぅん。機会があったら食べてみる!あ、魚って言ってたらば!魚の焦げ臭い臭いが~!おかん!焦げてんぞ~!あっ、じゃ、またね!おやすも!』

 『あっ、うん、またね!お疲れ~!』

 『おやすも~!これから夕飯なのかな?ミイミがいつも遅いのは、だからかな』


 タイミングを見計らったかのようにミイミが消えたので、かりんとAYAは意識し合っているのか、互いに会話が途切れてしまった。

 しばし、タイムラインに挙がらない沈黙が流れた。


 『AYA、DMに行っていい?』

 かりんが口火を切る。ミイミとのやり取りで、スッキリしたらしい。

 『うん。自分もすぐ行くよ』

 AYAは内心ヒヤヒヤしていた。かりんは断って来るのだろうか、と。



「『お待たせしました。AYA、一緒にオープンキャンパスへ行ってくれる?』」

 「『え……いいの?俺が一緒で?』」

 かりんは、再び「俺」という文字を凝視する。やはり男の子なのかな、と。

 「『こちらこそ、私でいいのかな』」

 もし、彼女さんとかがいたら?マズくない?とは続けて書き込むことが出来ない。

 一方的に意識をし過ぎているのか。

 彼女の話しなどこれっぽっちも話題に出ていないはずなのに、彼女さんに悪いとか、自意識過剰ではないのか……?

 もしかして、この気持ちは……?

にわかに思い出す。こんな風に相手を想う気持ち。

 ううん、逢ったこともない、本名も顔も知らない。つい最近までは女の子だと思っていた人なのに……それは、ない。

 ……ないと思う。

 かりんは、を瞬時に打ち消す。有り得ない、と。


 AYAは、きっとかりんは断って来るだろう、と考えていた。それが一緒に行こう、と返事を貰えたので、少々舞い上がってしまった。


 『もちろんだよ!ひとり参加よりも、知っている人が一緒なら俺も心強いよ。やっぱこんな俺でも不安はあるからね。有難う!よろしく!』

 『あっ、こちらこそ有難う!私も安心する。良かったぁ。仲間がいて』

 『うん、かりんには逢いたいと思ってたんだ……俺』

 『えっ……』

 『あ、いや、そんなヘンな意味じゃなくて……どんな意味だよ。えっと、かりんて、どんな子かな、って』

 『……私もAYAに逢ってみたいけど……ごめんなさい。私は美人でも可愛くもないからね。最初に言っておくね』

 『あ、いや:だからさ、そんな意味じゃなくて、それを言うなら俺だってイケメンじゃないし、背だってそんな高くないから』

 『あ。そういえば、目印がないとすぐ分からないよね。私は写真とかを先に送るのはちょっと……恥ずかしいな。目印じゃ、ダメかな?』

 『お、目印ね。それ、いいね!じゃあ明日までに考えておくよ。また明日……明日は表とこっちに来るよ』


 『うん、分かった!私も明日までに考える!有難う!おやすみなさい』

 『おやすみ~!また明日!』


 胸の鼓動が邪魔をして、なかなか眠れない二人であった。


 両人とも同時に淡い恋心が芽生えていたのかもしれない。

 当人たちにはそんな自覚はまだ、訪れてはいなかったのだ。

 あと二日で逢える。

 それだけを想っていた二人であった。



 


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