第9話 それぞれの納得がいかない

 その日の晩は、皆が一様に夕食後にSNSへとやって来た。早い者は八時を少し回っていた。


 『え~!みんな、調べてくれたんだ!嬉しいようようよう~!ありがと!』

 ミイミは、今まで隠していた《マンデラエフェクト》や、《マンデラー》、《パラレルワールド》等の話題をSNS内でフォロワーたちと心おきなく話し合える機会に恵まれて、舞い上がっていた。

 『受験生たちに何させるん』

 『へ?こんな時だけ受験モードなん?』

 『あら。バレまして?』

 『あれれ、かりんは?』

 『……今晩は……います。私の頭がぐるぐるしてて……今日の授業中もぐるぐるしてた……今もだけど』

 かりんは、平行世界にいるが存在するらしいと分かり、複雑な心境であった。

 さんちゃんは、少しばかり遅れて参加した。

 『俺っちが二人いるのか?マジ?』

 『私のかりんとのDMが全消しされてたの。私がこっちに跳んで来たのだと思うんだよ。向こうでは、さんちゃん、かりん、AYAがよく絡んでて、それにみんなが加わってた感じだったんだよ』

 『あー、そうよね!そんな風だったわ。うん。たまにいっちゃんがさんちゃんと漫才してた感じ』

 『え!いっちゃん?キャラ違うじゃねーの!俺っちと?漫才?いやー、俺っちが見てみたいぞ!』

 さんちゃんはあまりショックを受けてはいないらしい。莉花はどう切り出していいのか分からずに、タイムラインに流れている会話をただぼーっと眺めていた。

 平行世界とか、歴史が違うとか、地図が違う、体が違うと言われても、正直ピンと来なかった。それよりも、自分と同じ自分が違う世界(線)に存在していて、そちらには二歳下の妹がいるらしい。AYAという人(もしかしたら男の子)と、オープンキャンパスに参加したかもしれない……そんなことは自分は絶対しない。でも、平行世界の自分はそうだったらしい……でも自分じゃない。

 ハッ、と画面を見ると、何やらツリーが賑わっていた。

 『ねえ、かりんはどっち?』

 どっち?ぼーっと眺めていたせいで、タイムラインを流れる会話をよく把握していなかった。莉花は慌てて前を辿って話題を確かめた。


 ……え?東京タワーの色……?東京タワーって、あの?紅白の?

 ツリーを遡ると、中には赤一色だと言っているフォロワーたちがいる。ミイミとつぼねの君通称つぼんぬと、カックン。

 いずれも、かりんとAYAが絡んでいたと発言したグループだ。

 『え……赤と白だよね?昔から。だって、高い鉄塔はそうしなくちゃいけないんでしょう?決まりで』

弟が「お姉ちゃん知らないの?」と、いつのことであったか、自慢げに話していた。


 『それがさあ、昔から赤一色だったんだよ!お土産で貰ったボールペンのキャップが東京タワーだったんだけど、真っ赤だったの。今の時代じゃないよ、両親が若い時貰ったお土産だけどさあ……』

 ミイミが証拠の品が無くて残念だ、と続けた。

 『……これがマンデラエフェクト、ってやつ?俺っち、赤と白なんだが』

 莉花は、ここにいるみんなが何故こうも落ち着き払っているのだろう?と、疑問に感じた。自分などは昨夜(正確には今朝だが)から一睡も叶わなかったというのに。


 『……ね、みんな……気味悪くない?こんなこと、私信じられない……違う世界?世界線?の私が居るとか……?東京タワーの色?だって赤と白だよね?見えてるものはこれだけだよ。変わってないよ……前からこれだったよね?』

 莉花の他は、いつもと変わらず普通に会話を楽しんでいるように見受けられる。信じているのだろうか。こんなこと、ハイそうですか、などと、すんなりとは受け止められない莉花である。

 『……うん。実は、私も昨日ここでかりんの話を聞いたというか読んだ内容が信じられないわ…… AYAを知らないがいるなんて!かりんが嘘をついているとしか思えなくて。夢でも見たのかとまで思っちゃったわ!』

 東京タワーは赤だと言うつぼんぬが本音を漏らした。

 『私は嘘なんかついてないよ!こっちこそ、みんなで私を……私……』

 言葉を繫ぎたいのに続けられない。みんなの顔が見られないもどかしさ。

 言葉の字面だけを追って頭で理解しても、心では、気持ちでは受け止められない。

 『あ、ごめんなさい!かりんのこと悪く言うつもりはないのよ……嘘なんかついてないのは分かるわよ……字を読むしかないけれど、伝わって来るものはあるし。ただ、それくらい考えられないことだった、って言いたいの』

 つぼんぬは、信じられない程かりんが別人になってしまったと思っている。


 『うん、実はさ、私は最近かりんに相談してたんだあ……しょっちゅう妙なことが起きるんでさ、おかしくなっちゃったのかと真剣に悩んでたんだよ』

 ミイミが告白した。

 『えっ?私に?……でも、あの』

 莉花には思い当たる節がなかった。

 『ああ、うん、のかりんに、だから』

 『俺っち、そんなの読んでないぞ?』

『多分のさんちゃんもみんなも読んでないよ……私のスマホには残ってないけど、かりんとやり取りしたのはDMだもん』

 『あっ、あの、全消しされたやつ!』

 『そう、それ!ショックだったよ!つい最近のやつまで綺麗に真っ白だよ!記憶だけにしか残ってないなんて!私だって夢だと思いたい!……当のかりんは私のこと《ミイミさん》とか言ってるし、DMしてない、って言うしさあ……ああ、このは別人なんだ、って。プロフとアイコンとIDを凝視しちゃった!今回はスクショに収めたからね!みんなのも。変えたら私に教えてね。スクショし直すからさ』

 『あああ、分かるわよ!そう、凄い違和感だったの。かりんとミイミのやり取りが……あ、別人ね……なら理解出来るわ』

 『多分さあ、私思うんだけど……私とつぼんぬとカックンは、に跳ばされたんじゃないかなあ。そんな気がする。AYAを知ってるし』

 『跳ばされた……?』

 『て言うか、跳んで来た』

 『自分以外がみんな前とちょっと違うアイコンなんだけど、プロフまでハッキリ覚えてなかったよな……フォロワーの半分近くがアイコン総入れ替え?になってるのは関係してるっぽい?』

 『おおお!カックン、それ、マンデラーあるある、だよ!それよりカックンの発言にショックだよ~!なんでもっと早くそれ、その情報を流してくれなかったの~!まだ私の他にいたんじゃないよ!』

 『ええと、つい最近、一昨日の朝だからね。気付いたの。あれ、なんかみんな総入れ替えみたいなアイコン?になってて。同じ人もいたけどね。ううん……ミイミこそ、前からなんかあったのなら、教えてくれたらよかったのに』

『だって!頭おかしくなったと思われるのは嫌だったからさあ……』

 『俺っちも頭ヘンになりそう。今でしょう。今してるこの会話の中味はヘンだよ……これ、フォロワーに読まれていると思うとなんか怖い』

 さんちゃんも困惑しているようだった。

 莉花は、彼らの会話を読んでいて、少しホッ、とした。

 『皆さん、納得してないんですね?』

 全員一致で『納得出来るかこんなこと』と結論が出た。

 AYAは何処にいるのだろう?と、こちらも意見が一致した。

 

 

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