第8話 あっちのかりんとこっちのかりんとフォロワーと

 ミイミというかりんのフォロワーが、AYAと接点のあったと相互フォロワーだったと言い、彼女がAYAと一緒にオープンキャンパスの参加を決めて、DMでやり取りをした後で、AYAが女の子ではないらしい呟きをしたのを最後に、かりんがネットに浮上しなくなった、と、そこまでをこちらのに説明した。


 ああ……だから初対面の男子と参加したの、と聞かれたんだ。

 莉花は、最初の質問の意味をやっと理解したのだった。

 すると、その会話を見かけたフォロワーたちが、少しずつやって来た。

 既に時計の針は翌日の一時を指している。彼女らもまた、莉花と同じ受験生である。頭を使いすぎて目が冴えてしまったのだろう。


 『どーも~。捗りあそばした?』

 『それ禁句にしてくんない?胃痛クルんだけど……』

 『今から~?どんだけ~?』

 『あれ、さっきAYAがどうとか言ってなかった?』

 『誰、その子?私知らないよ』

 『なんか、ここのが違うの。私の知ってる彼女は、AYAを知ってるはずなんだけど……』

 マンデラエフェクトやマンデラーを説明したいミイミであったが、まだ彼女らとは深い話が出来ずにいた。

 あちらのとは、不思議な現象について、他のフォロワーたちに見えないDMで、相談めいた話をしていた。かりんは不気味だと言いながらもミイミの話に耳を傾けてくれたのだった。そのDMは既にSNS内からは消失していた。

 しかし、発言内容から、この中にはAYAを知っている人がいるのだ、このチャンスに話してしまおうか、と思案した。

 『そういえば。最近AYAを見かけないけど……鍵かけたのかな?それともやめた?確かあの子も受験生だったよね?』

 AYAを知るひとりが口火を切った。

『そうそう!!そうなんだよね?ほらぁ、やっぱAYAがいないのおかしいよね!あんなに毎晩今頃さあ、かりんやさんちゃんたちと絡んでたのに~!』

 さんちゃん、とは三つ子のひとりで、三番目だったので周囲から「さんちゃん」と言われている。

 莉花はさんちゃんというフォロワーは知っていた。いっちゃんにいちゃんさんちゃん、と仲間内で呼んでいた三男の人だ。彼らも同い年である。


 でも……さんちゃん、は知っているけど、AYAという人が一緒に絡んでいたはずはない。知らない人だし、さんちゃんが絡んでいるのも見たことはないし、と莉花が言おうとしたところへ、さんちゃん本人がいつものようにひょい、と現れた。

 『何?さんちゃん呼んだ?』

 『でーたーっ!』

 『何、ヒトを幽霊みたいに!』

 『噂をすればさんちゃん!』

 『噂をしなくても来るのはにいちゃん、だっけ?』

 『違うよ、そっちはいっちゃんだよねー?』

 『そーそー。呼んでも来ないのが、にいちゃん』

 『どんな三つ子なんだか。暮らしぶりが見てみたいねー』

 フォロワーたちが次々とリプを書き込むのを見つめながら、莉花はAYAを知っている人がミイミの他にもいることに衝撃を受けていた。

 衝撃を受けたのはかりんだけではない。

 『あのさあ、ちょっと俺っち、なんか、寒気してんだけど……AYA、ってどの子?ネーム変えた子?俺っちがかりんと一緒に絡んでた、って言ってたの見たけど……誰のこと?』 

 莉花たちに衝撃が走る。

 『……そうだよね……AYAって誰?だよね?私も初めて聞いたというか知ったというか?』

 莉花は、さんちゃん本人とは絡んでいても、先ほどミイミから話しかけられるまでは知らなかったユーザーネームである。


 『ちょっと、私タイムライン遡って読んで来るわ』

 『え……何でAYAを知らないの……。さんちゃんも?かりんも?えええっ!それおかしいよ!ねえ、なんでよ!?どういうことなの!』

 フォロワーたちは、AYAを知らない派と知っている派に二分された。


 次々とタイムラインを読み終えたフォロワーたちは、二手に分かれて意見を書き込んだ。

 知らない間に、このSNSにいる彼らは、パラレルワールド……平行世界を移動しつつ、様々な世界線からネットで繋がっているらしい。

 今、莉花のいる世界線にはAYAは存在しない。か、又は、SNSからアカウントを消して退会したのか。

 それにしては、当のかりんがAYAを知らないと問題発言をしていると。おかしいという。

 AYAとかりんのやり取りを覚えていた者たちは、口を揃えて二人で同じ大学のオープンキャンパスに参加する約束をしていたはずだと言った。

そして、その約束をした後の呟きが双方でされておらず、二人の絡みもない。

 それどころか、AYAの気配が感じられない。フォローが外されている。

 まさか、オープンキャンパスでトラブルでもあったのか?と心配してみれば、かりんは普通に何事もなかったかのようにフォロワーたちとやり取りをしているではないか。

 そこへミイミが話をかりんに振っていたので、AYAを知っている派は、ここぞとばかりに話に加わったのであった。

 片や、知らないユーザーネームと絡んでいたと話された莉花(かりん)とさんちゃんは、身に覚えのない話であり、お互いに誰かネームを変えた人の心当たりはないか、と首をひねった。

 思い当たるユーザーはいなかった。



 『あああ~!もうさあ!二時じゃんかあ!あのさあ、お願いがあるんだわ!』

 ミイミがしびれを切らした。このチャンスを逃してはならない。

 『な、何?発狂しないでよ……』

 『さんちゃんにも?お願いされるのかな?』

 『ミイミさん?』

 『げ。かりんがミイミさんだって……』

 『え?』

 『ほら、だからさ、が違うの!』

 『ほほぅ……』

 『言っとくけど、も違うからヨロシク』

 『ほほぅ……ぅえ?』

 『明日の、あ、今日か、夜早めにここに来るから、みんなも来て!そして、それまでにネットで《マンデラエフェクト》を調べて来てくれる?お願い!』

 『……マンデラエフェクト……?』

 ミイミの他にこのワードを知っている者は、ひとりしかいなかった。

 

 

 

 



 

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