02 お頭、なんか不憫です

お頭様


 確かに私は追加の情報を送って欲しいとは言いました。ですが、『奇妙な冒険者とギルド』とだけ書かれた書簡を送ってどうして理解できるとお考えになったのでしょうか。お頭は私のことを魔法使いか何かだと思っているのですか? いや、魔法使いなのは間違いないのですが、人の考えを透視するようなタイプの魔法使いでないことはご存知ですよね?


 もうちょっと、いいえ、もっとまともな情報をください。それとも、前回の報告を踏まえた上でこのコメントなのですか? 余計なことに頭を使わせないでください。


 まあいいや。今回の連絡も件の冒険者についてです。彼と一緒に仕事をしてみることにしました。毎朝の受注業務の中で営業していること、ことごとく断れているのを知っていたので楽にこなせるかと思っていたのですが。そうしたら一悶着ありまして。


 まず、私の後ろに並んでいた他の冒険者がやじを飛ばしてきました。曰く、彼の営業には耳を貸してはいけないのだそうです。自由を絵に書いたような冒険者達が他人の営業に口出しとは滑稽です。それもまた自由というところですが。


 やじに気づいたのか、ギルドの職員がようやく表にやってきました。引きずるように受付係を裏に連れて行って数分、今度は彼を連れた例のパーティとギルド職員が戻ってきます。彼の顔は赤く腫れていて何があったのかを如実に示していました。そして気持ち悪い笑みを浮かべたリーダー格が口にするのです。


「トーレムはうちのメンバーでな。どうしてもって言うなら、金貨一枚、いいや、十枚は出してくれないとなあ」


 木級冒険者を雇うにはボッタクリもいいところの値段です。このパーティを一年間雇ってもお釣りが大量に必要でしょう。とにかく腹立たしかったです。私がちょっと力を使ってお頭がもみ消せば、という企てもありましたがぐっとこらえました。ええ、こらえましたとも。


 ですから、本当の正体を明かしてギルドを潰してしまいたい気持ちを必死に抑えて、金貨十枚を積んだのは褒められて然るべきと思います。なお、金貨十枚は経費として請求しますのでよろしくお願いします。


 依頼は隣町で受注した高難易度依頼、あのギルドの所属員では太刀打ちできない内容です。こうして私とトーレムの二人きりの状況になって話を聞くことができました。


「あ、あの、この依頼は僕だと力不足で……どうしても僕でないとだめなんですか?」


「私は君のことが気になってね。大丈夫、私の後ろにいれば何も問題は起きないから。そうだなあ、君は私の話し相手になってくれればいい」


「そんなことでよければ」


「じゃあさ、どうしてギルドで職員みたいなことをしているのかな? いろんなギルドを見てきたけれど、君のような子ははじめてだよ」


「それは、その、お恥ずかしい話なのですが。僕、この通りあまり能力がなくて。パーティにも貢献できないからお金が貰えないんです。だからギルドでアルバイトしてお金を稼いでいるんです」


「ちょっと待て。パーティの間の報酬は分配されないと?」


「僕はあまり役に立っていませんし」


 我々から金貨十枚をぶんどったあのパーティ、パーティ内の報酬均等分配の規則に違反していることがここで証言されました。


「僕ってあれなんですよね、魔法の適性はあると診断は受けているのですが、ずっと魔法が使えなくて」


「こんなことを言ってしまうのはなんですが、どうしてそこまでして冒険者にこだわるんだい? もっと安定した仕事もあるだろうに。それこそギルドの職員とか」


「これも恥ずかしい話なのですが、憧れ、なんですよね。昔、名前の知らない人に森で助けられたことがあったんです。その時の印象が強くて強くて。子供っぽいですね」


「そんなことはないんじゃないかな。なんとなくで冒険者やっているやつもいるし、まともな仕事をやるには後ろめたい連中が冒険者やっていたりなんてのもよく聞くからね」


「お酒を飲んで盛り上がっている人たちがそんな話をしていました。ああいうのも憧れなんですよね。みんなで何かを達成して、みんなで飲んで楽しんで」


「火焔だっけ? あのパーティはそういうことをしないのかい?」


「多分僕がいない間にやっているんじゃないですかね。朝にお酒臭い時があるので」


「どうして君は誘われないの?」


「僕はみんなの手続きで遅くまでギルドにいますし、ギルドの仕事も残っていますし」


 これは彼と道中で話したことのごく一部です。話せば話すほど疑念が強くなるばかりです。かのパーティに、しいてはギルドに。ギルドやパーティに問題があるのはこれで分かりましたので、さらに調査を進めてまります。あるいは別件として処理すべきであれば、担当を送っていただければ然るべき引き継ぎをします。


 ですが、ギルドの問題があるのであれば素直にそう教えてくれればよいのではないですか。あらかじめ知っていればもっと別のアプローチを取って早期解決を図れたといいますのに。


 もしかした私を僻地に送っている間に遊ぼうなんて考えていないですよね? あ、でも街に下りるのであればターベ魔法具店に寄って品物を受け取っておいてください。私の名前を出せば店主が分かってくれます。お頭が私に依頼していた物ですのでそのまま使ってください。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る