第9話 記憶の粒



 さくらはヒノキの隣で深緑の湖に光が差し掛かっているのを見つめる。

この旅では、どこへ行っても何故か見たことがあるような懐かしい感覚を覚えた。

そして、この湖は前からこんなに寂しげで、私を切なくさせただろうか などと考えている自分がいた。


「そっか、さくらはこの状態のこの湖を見たことないよね。」


そう言ってヒノキは立ち上がる。


「見たい?」


と、片方の口端を上げて意地悪そうに笑った。

さくらはそんなヒノキをじっと見つめて「見たい。」と唸った。

さくらはヒノキが言う、さくらの見たいものが何のことかは分かっていなかった。

けれど、この青年はさくらが今求めているものをさくらより知っているということを、さくらは何となく直感的に理解できた。

ヒノキはもう一度、唇を尖らせてあの曲を奏でた。



伊佐はとっても いーさ

鳥神山 高くそびえー



どこからともなく、少年少女の声がさくらの頭の中に木霊し、それは大合唱へと変わった。

すると、湖の水がざわざわと震えだし、粒となり空中に浮いた。

細かい粒や大きな粒が様々に震え、森の木々の間に吸い込まれるように一気に消えていった。

それと同時に目の前の沢山の粒は一瞬にしてなくなり、突然洋風の城のような建物が現れた。


「あ。」


さくらはその建物を見て、ハッとさせられた。

この洋風の遺跡を実際に見るのは初めてだと思い込んでいた。

けれど、さくらは実際に見たことがあった。

しかも、一度ではない。

様々な記憶がさくらの脳内でフラッシュバックした。











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