——拝啓、姉上様

大宮 葉月

拝啓、姉上様

 突然だが、私には腹違いの弟がいる。

 あれはそう、私が十歳の頃の話だ。朝から父と母が顔を付き合わせて、いまにも取っ組み合いを始めそうな程、口汚く罵り合う様を庭先からそっと眺めていた。

 磨き込まれた銀食器が屋敷勤めのメイド達によって、寸分の狂いも無く並べられ、まさにこれから朝餉が始まろうとしていた矢先だった。

 母は一枚の手紙を握りしめ、綺麗に結わえられたシニョンも解けるかの勢いで唾を飛ばし父に罵詈雑言を浴びせている……ようである。生憎とだが何を言っているかまでは分からない。

 一方父も言われっぱなっしでは家長としての面目が立たなかったようだ。よわい四十に差し掛かり、若い頃は美しかった美貌が陰り始めた母に向き合い、ワインも飲んでいない素面であるにも関わらず、頬を真っ赤に染め上げて怒鳴り始めた。

 もっとも、窓ガラスを一枚隔て、庭先で趣味の土いじりをしている私には、何を怒鳴り合っているか聞こえる筈も無く、暑さを和らげる麦わら帽子から覗く小さな耳には、ひばりの囀りが「ちちち」と響くのみ。

 怒鳴り合い……もとい話し合いは、朝餉の時間を潰して昼頃まで行われた。

 そして、明けて翌朝。母は屋敷を出て行った。


 それから十五年後。私は父の言いつけに従い、とある辺境を治める領主様に嫁いだ。

 同年代の淑女達と比べて、化粧っ気が無く、また着飾ることにも無頓着な私は身分の高い家柄にも関わらず「芋娘」という不名誉な蔑称を頂戴していた。

 私のことはともかくそれは芋に失礼すぎやしないか? と思ったが、周囲が私を見る眼はどうやらそういう評価らしい。

 実家の家庭菜園で馬鈴薯じゃがいもはよく栽培してたし、当時少ないながらも屋敷に遊びに来てくれた友達に、「ふかし芋」をお茶会の席で振る舞っていたのも事実なので、そこは深く突っ込むまい。

 そんな黒歴史と呼べなくもない、うら寂しい少女時代を振り返りつつ、つい先日届いた弟からの手紙に目を通す。うららかな日差しが差し込みぽかぽかと眠気を誘う、穏やかな午後。

 嫁ぎ先の領主様は、私には勿体ないくらいの良いお方で、辺境故の食糧不足を解決しようと日々尽力されているお方である。やや歳は離れてはいるものの、若い頃は実家の農業を手伝いつつ、辺境の領地を守る衛士でもあったそうだ。みやこの長葱のようなヒョロヒョロとした貴族の男共に爪の垢を煎じて飲ませたいほど、野性味に溢れた自慢の旦那様である。

 おっと、のろけ話が長引いた。そろそろ弟の話をしよう。


 母が家を飛び出て、一ヶ月が経った頃。ある日父が見知らぬ男の子と、見るからに儚げな一人の女性を屋敷に連れてきた。

 突然、母が出て行ったショックもあり、これまで以上に土いじりに没頭していた私は、農作業用のみすぼらしい土まみれのつなぎ姿で、二人のご尊顔を初めて拝見した。

 父に命じられた鬼気迫るメイド達により、私は茹で上がった馬鈴薯の皮のように風呂場でつなぎをひんむかれ、身体を洗われ、芋娘から貴族のご令嬢に相応しい衣装に強制的に着替えさせられた。

 そうして、一月前に父と母が離婚を決めたのであろう食堂で顔合わせが始まった。

 簡単なお互いの自己紹介の後で、父が私を紹介し、お相手の女性が男の子を紹介する。

 初めて弟を見たときの感想はなんというか、小鳥みたいだなという第一印象だった。

 髪は縮れた栗毛に、くりくりとして落ち着かない青い瞳。

 余所行き用の子供には過ぎたフォーマルな形式ばった服装はさぞや窮屈であろう。

 無論、私もさっさとこんなヒラヒラとしたドレスなど脱ぎ捨てて、今すぐにでもシャベルを握りたいくらいである。

 そんな私達の気持ちなど無視するかのように和やかに進む、父と見知らぬ女性の談笑。

 これがまさかお見合いであったなど、幼い時分の私には分かるはずも無い。退屈な時間の中、せめて父の娘に恥じぬ振る舞いをしなければと気を張っていたところで、目の前の男の子に屋敷を案内してあげなさいと父から命じられた。

 無論、断る理由などあるはずも無し。私はお行儀よく元気な声で返事をすると、戸惑う男の子の手を取って、子供には広すぎる屋敷内を案内して回った。


 玄関ホール、来客を出迎える談話室、炊事場、浴室、二階の客室、私の寝室。

 男の子は一言も発さず、まるで生まれたての子鹿のように、ひょこひょこと覚束ない足取りで、私の話に聞き入っている。この時点でおかしいと思うべきだったのだが、説明に熱心な余り私は男の子が何を抱えているのか察することすらも出来ないまま、屋敷巡りを続ける。

 やがて、あらかためぼしい場所には案内し終えたところで、私の屋敷内での唯一の領域である家庭菜園に案内した。

 馬鈴薯のみならず、根菜類、柑橘類、その他色々な植物が生い茂っているこの一角だけは庭師にも弄らせない私が作りあげた聖域である。中には王都から少し離れた森の中で採取してきた貴重なハーブや薬草の類いが青々と葉を茂らせている。つい先日、父の知り合いである王宮勤めの学者様が聖域を一目見て、目ん玉が飛び出る程驚いていたのを思い出す。

 どうやら私には植物を育てる才能があるらしい。愛情込めて土を耕したり、水を捲いたりしてるだけなので、才能と言われてもピンとこないけども。


 隣の反応をそっと伺う。これまで屋敷内のきらびやかなものには特に反応を示さなかった男の子の目が、初めてキラリと光ったのを私は見逃さなかった。次々と指さされる私自慢の植物を気前よく解説していく。

 そうやって夢中で一人で話していると、いつのまにやら父とあの女性が庭先に出ていた。

 今日初めて会ったのか、それとも以前から母に隠れてひっそりと付き合っていたのかは、預かりしらぬところだが、肩など寄せ合い随分と親しげな様子である。

 樹齢百年を超えた楡の木の陰に設えられた東屋へ、人目を忍ぶように入って行く二人は何処からどうみても恋人のそれ。

 子供ながらにもやもやとした例えようのない感情を抱いていると、ちょんちょんとドレスの袖を引っ張られた。視線を移せば男の子が少し寂しそうな目で私の眼をじっと見つめている。

 もう片方の手は馬鈴薯に向けられたままで、どうやら次に聞きたいのは芋についてだったらしい。悪いことをしてしまったと思った矢先、全く同時に二人のお腹がぐーと鳴った。

 気づけばもうお昼も過ぎていた。朝から菜園の雑草抜きをしていたので、お腹はとうにぺこぺこであり、それは慣れない環境で母親に構ってもらえない男の子も一緒だったようだ。

 私たちはしばし顔を見合わせると、ドレスが土まみれに、余所行きの服装が泥まみれになるまで馬鈴薯を掘り尽くし、井戸水で洗い、焚き火台で火を起こして串に通して焼いて食べた。

 それはもう、お腹が一杯になるまで。無論、その後、父からしこたま怒られたのは語るまでも無い。


 


 ——拝啓、姉上様。お元気でしょうか。


 律儀な弟から届いた手紙の内容は父から家督を譲られたという簡潔な内容だった。

 若い頃は国に仕える軍人として、各地に遠征していた父は持病の悪化により数年前に退役していた。弟の母、つまり私にとっては継母ままははも元々身体は余り良くなく、これを機会に二人して身体に良いとされる温泉が一年中湧く、遙か遠方の島国へ隠居し早数年。

 しばらくは私が屋敷の切り盛りを任されていたものの、自他共に認める生粋の「芋娘」である私に金勘定など出来るはずもなく、その役目は自然と博識でまさに絵に描いたような美男子に成長した弟に取って代わった。

 実際、屋敷のメイド達からも先代である父以上に頼りにされる働きぶり。

 全てに置いて完璧な自慢の弟であったが、彼には唯一欠点があった。

 生まれつき声を発することが出来ない、難病を患っていたと知らされたのは、継母と弟が屋敷に住み始めてまもなくの事だった。

 これまでも治療法を求めて、高名な医者の噂を聞きつけては、遠方へと足を運ばれたそうだが、およそ殆どの医者が弟の病状に匙を投げた。

 弟が幸運だったのは良くも悪くも私という「芋娘」が、身近にいたことであったのだろう。

 立派なお屋敷に住まう身分でありながら、雨の日も、風の日も、土いじりに精を出す奇人。

 方や引っ込み思案で、人前に滅多に出ることは無いシャイな弟。

 どちらが風聞として大衆に好まれるかは、圧倒的に前者であろう。

 ということをお茶会の席で私の数少ない友人、遠く「ヒノモト」と呼ばれる島国から留学で滞在されている、さる高貴なお方であるミツエ……みっちゃんに自嘲気味に話したところ、彼女は細い目をかっと見開いて私にセイザ正座をするよう促した。みっちゃんは怒らせると怖い。私はそれこそ生まれたての子鹿のように、ガクガクと膝を震わせながら床に膝を突いた。


 ————自身を卑下するようなことは、言ってはなりません。腹違いであれど、貴女に取っては大切な弟君でしょう。年長の者が年下の兄弟を護るのは当たり前のことです。そして、世間の醜聞から弟を護るべく矢面に立っている貴女を、わたくしは友として尊敬いたしております。


 みっちゃんの一言に「近くては見えぬはまつげ」という彼女から教わったお国のことわざが頭に浮かんだ。


 離れた物はよく見える目も近接した睫は見ることができない。同じように、人は他人のことについてはわかっても、自分自身のことについてはよくわからないものだという意味である。


 そんな積もりは毛頭無かったが、友の言葉を聞きほろりと滴が流れた。

 色々思うことはある。父と母の離縁。突然出来た新しい家族。私も激変する家庭環境に、身も心も砕いてたたいて粉にして、たんぽぽで作った珈琲でそれを溶いてがぶ飲みして誤魔化し、知らずの内に辛い思いをため込んでいたのだと。




 

 ——拝啓。お元気でしょうか。

 こちらは夏も過ぎ、稲穂実り、秋毘売神あきびめのかみをお迎えする季節と相成りました。


 弟の手紙と一緒に届けられたのは、今は祖国にお戻りになられたみっちゃん……三条ミツエ様からである。彼女が留学から戻った直後に「ヒノモト」では世界でも類を見ない無血革命が起きて、国の在り方も一変した。しばらくはこうして手紙のやり取りも途絶えていた訳だが、内容を読む限り、新しい国作りは大変でありながらも非常にやりがいがあると力強い筆跡で記されていた。留学中から頭角を現していた彼女は、これから外交使節団として諸国を巡る旅に出るらしい。


 いずれまた再会を約束する結びまで読み終えて、今頃優秀な彼女はどの国に居るのか思いを馳せる。みっちゃんは私の良き理解者で、植物について語り合える唯一の友で、芋臭い私にとっての憧れの人であった。

 

 しばし、昔の思い出に浸りつつ、そういえばそろそろ弟の誕生日が近いことを思い出す。

 いつも何かにつけて、食の細い弟に滋養になりそうなものを送ってはいるのだが、辺境での農地改革が本格的に始動し始めて以来、お屋敷にも滅多に帰れなくなってしまった。

 今年の誕生日には何を送ろうかと思考を巡らす。北方に位置する辺境は自然が手つかずのまま残っていて、林業等の地場産業が主な収入源だ。


 中でも厳しい環境の中でもたくましく生きるミツバチの巣から作られる蜂蜜は特に絶品で、食卓を飾る料理の調味料として重宝されている。これまでも、蜂蜜を混ぜ込んだ焼き菓子を何度か送っているが、さて間食が好きでは無い弟が食べてくれたかどうかは一向に分からない。大方、屋敷のメイド達のおやつになっていそうだが、蜂蜜は喉にも良いと聞くし、出来れば弟に食べてもらいたいものだ。


 今年の誕生日プレゼントは何を贈ろうか。楽しげな想像がふわふわと頭に浮かんでは消える。

 これから寒くなってくる季節。羊毛で編んだセーターも良さそうだし、たまに旦那が仕留めてくる熊の毛皮を余すことなく使った絨毯も良さそうだ。


 実家の屋敷は広いだけあって隙間風も洒落にならなくて、冬は暖炉の前から中々動こうとしない幼い頃の弟の姿がふと浮かんだ。


 その日は朝からとても寒い一日だった。

 朝から菜園に積もった雪をシャベルで掻きだしていた私が一仕事終えて戻ってくると、弟は揺り椅子に座って毛布にくるまりガタガタ震えながら、熱ーいココアを啜っていた。

 同じく防寒具を着込んでいた私も身体は芯まで冷え切っており、一目散に暖炉に駆け寄り両手を翳す。

 パチパチと燃える薪の音に耳を澄ましながら、じんわり温まる感触に冷え切った身体に熱が伝導するかのようだ。しばらく無心で温まっていると、じっと弟から視線を注がれていることに気づいた。

 はて? 彼は一体何を訴えているのやら? と思い視線の先を辿ればそこにあったのは、初めて二人で食べた焼き芋用の串だ。確かにお腹は減っている。それも今の今まで、粉雪チラつく屋外での雪かきの後である。何より私が一番芋を所望していた。

 丁度良い。この間、みっちゃんから貰ったヒノモトの美味しい芋を焼こうと、私は急ぎ炊事場へ。それは皮が渋い薄紫で馬鈴薯より細長い今まで見たことも無い芋である。

 「ヒノモト」ではサツマイモと呼ばれ、じっくり焼くと甘い蜜が染み出す甘い芋なのだという。暖炉の在る部屋に戻ってくれば、相変わらず弟はがたがたと震えていた。

 どうやら寒さに極端に弱いらしい。かくいう私も正直、暖炉の熱だけでは冷え切った身体は温まりきりそうに無く、身体はどうしようもなく熱を求めていた。

 さっそくサツマイモを二本、串に刺して暖炉の火で炙る。本当は落ち葉を集めて、その中に芋を突っ込み焼くのが通の楽しみらしいが、外は生憎の雪景色でそれはまた今度の機会ということで取っておくことにする。

 そうこうしているうちに香ばしい香りが、室内に広がった。ふかふかと湯気を上げるサツマイモを火ばさみで串から抜いて、フォークで突き刺して中まで火が通っているか確認。

 どうやら問題無さそうだ。そのままナイフで切り分けて、くすねてきたバターの切れ端をペタペタ塗って、ニュースペーパー新聞紙の厚紙に包んで弟に渡した。

 ふぉぉぉ!? と青い瞳を輝かせて黄金に光るサツマイモを凝視する弟。

 ふーふーと小さい口で、冷まして冷まして芋に齧り付く。すると、どうだろう。

 くるんでいた毛布がふぁさりと絨毯に落ちたことにも気づかないくらい夢中で、パクパクと食べ始めたでは無いか。

 その表情は見るからに幸せそうで、どれと思い私も一口パクリといってみた。

 

 とてもではないが、この美味しさを表す言葉を私は知らない。

 ほくほくに焼き上がったサツマイモと、とろけたバターが絶妙なハーモニーで芋の美味しさを何倍にも高めている。芋を口に運ぶ手が止まらない。

 あっという間に平らげて、弟と二人顔を見合わせる。

 どちらの口にもバターがべっとり付着していて、なんだか唇まで艶めいているようだ。

 最初は言葉をしゃべれない義理の弟とどう接すればいいのか、それなりに悩んではいたのだが、この二人だけのサツマイモパーティーがきっかけで、なんとなく彼の言わんとすることが分かってきたような気もする。

 それは、私が今まで物言わぬ植物と文字通り体で接し続けた経験のお陰かもしれないし、みっちゃんに発破かけられたからかもしれない。


 


 ——つきましては、姉上はどうかお屋敷のことはご心配なさらず。

 言葉を話せぬ身ではありますが、家長としてお役目を立派に果たして参る所存です。


 弟からの手紙はそんな言葉で締めくくられていた。

 実際、言葉など話せなくても人一倍努力してきた自慢の弟だ。私のような芋姉がいなくとも立派に務めを果たされることだろう。唯一の心配は、お嫁さんが見つかるかくらいではあるが、あの容姿と穏やかな物腰を併せ持つ弟であれば、彼を好いてくれる素敵な女性もきっといるはずだ。

 気づけば、さわさわと風が吹いて庭先の落ち葉が渦を巻いた。今年こそは落ち葉で焼き芋をやろうと、心に決めていたのだ。幸いここ辺境でもサツマイモの栽培は成功した。

 まだまだ少量ではあるが、私と大食らいの旦那の分くらいは確保している。

 この日の為に、地元の畜産農家から美味しいバターも仕入れ済みだ。

 さて、それでは手紙を閉じてそろそろ落ち葉をかき集めようとしたところで、来客を告げる呼び鈴がなる。

 誰かと思い迎えに出てみれば、そこにいたのは————。



 ——どうせ貴女のことですから一人で寂しく芋を焼いているのではと思い、予定を少々変更してお屋敷に寄ってみれば……。嫁がれたのならそうとお知らせなさい。お祝いの言葉も贈れないではないですか。


 夕暮れ時。我が自宅のお屋敷の庭と比べればこじんまりとした庭先で、私とみっちゃんはぱちぱち燃える落ち葉の前で、敷き布を敷いて座りこんでいた。

 どうやら外交の仕事を終えたみっちゃんはその足で、私に会いに来てくれたらしい。

 嬉しいやら恥ずかしいやらで、まともに顔も合わせられないまま、焚き火の火を眺めるしかない私。


 みっちゃんはゆったりとした着物に着替えて、正座で優雅にお茶を嗜んでいる。

 サプライズにも程がある来訪だったが、弟様からのお手紙読まれておりませんの? と彼女から問われ慌ててエプロンのポケットから手紙を取り出した。


 ——追伸。近々、姉上の友人と一緒にそちらに伺う予定です。

 そのときは、今度こそ落ち葉で芋を一緒に焼きましょうね。


 灯台もと暗しにも程がある見落としで、穴があれば入りたい。

 そんなおっちょこちょいな私を横目で見やり、みっちゃんは呆れた素振りをしつつ、玄関の方に目配せした。

 釣られてそちらを振り返れば、本日二度目のサプライズがそこに居た。


 ——あ……


 両手一杯の籠に、食べきれない程の馬鈴薯とサツマイモを抱えた見目麗しい貴公子。

 なんと粋な計らいをしてくれるのだろうか、この弟は。


 ——お屋敷に伺ったら、丁度出かける寸前の弟様と鉢合わせいたしまして。もう何年も貴女の誕生日を祝ってはおりませんし、良い機会だと思いましたの。


 暮れなずむ夕日と浮かび上がる山の稜線をバックに芋だらけの、私の誕生日が賑やかに開かれた。仕事から帰ってきた旦那とその同僚の人達も交えての華も無ければ、お上品でも無い誕生会。けれど、私にとってはこれ以上無く格別で、特別な誕生会。


 私は傍らで陽気に笑っている弟に目を向ける。

 なんだかんだで、私はこの血の繋がらない弟がとても好きだ。

 ——願わくば、これからも変わらぬ愛情を彼に惜しみなく注げますように。

 そう……流れ星に祈った。

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