雨粒の妖精さん

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 日常の何気ない瞬間の中、私は雨粒の妖精さんと話をしていた。


 そらをふわふわ浮かんでいるその妖精さんは、水の気配がすると人の前に姿を現す。


 けれど皆は、妖精さんの事は見えていないんだ。


 妖精さんなんていないもの、って思ってるから。


 でもね、妖精さんはいるんだよ。


 この世界に、確かに。





 雨がぴちょぴちょ。


 規則的に音楽を奏でてる。


 今日はずっと空から、降りっぱなし。


 こういう日は考えちゃうんだ。


 皆の涙が雨になってしまえばいいのにな。


 そしたら、きっと世界中のあちこちに泣いてる人がいるって事、気がついてもらえると思う。


 だってこういう日は、もしかしたらたくさんの人が泣いてるんじゃないかって思っちゃうから。


 雨になるほど涙を流して悲しむ人がいるって、そう思ちゃうほどの世界だから。


 他人なんてどうでもいいや。

 そんな顔して通り過ぎていく、町の人達。


 どうしてそんなに知らんぷりなの?


 寂しいよ。


 そう思っていたら、近くにいた雨粒の妖精さんがやってくる。


 妖精さんは、不思議そうな顔をして私に語りかけてきた。


 どうしてそんな表情をしてるの?


 って。


「普通はそんなに、人の事を気にしないんだよ」


 どうして?

 興味はないの?

 気にはならないの?


「自分の事が一番だから、あとは身近な人が二番だから。それ以外を気にしても、なんともできないしね」


 雨粒さんは、人間じゃないのに、人間の事がよく分かってるみたい。


 世界中で降る雨だからかな。


「できない人の方が多いんだ。だって人間だから。君だって、世界中の人の涙を止める事なんてできないだろ?」


 そうだね。


 だけど。


 気にしてさえいれば、いつか多くの人の涙をとめられるかもしれないよ。


「そうなる前に、大半の人間は潰れちゃうよ。そんな事も分からないんだ」


 けらけら。


 笑いながら妖精さんはどこかに行っちゃった。


 なんだか、私はちょっとさみしい。


 たくさんの人がまわりに、いるのに。


 とってもさみしい。


 へんてこだね。







 私は雨の降りやまない空を見上げる。


 雨粒がぽつぽつ。


 音が寂しそう。


 今日もどこかで誰かが泣いてるんだろうな。


 いつもどこかで誰かが泣いているんだろうな。



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雨粒の妖精さん 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032

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