第9話⁂大蔵とリンダ!⁂


 リンダは実力と大物スポンサーの口沿いで、度々CMに登場したりCMソングを歌ったりと、徐々に表舞台に登場するようになったのだが………。


 幾ら歌唱力に優れているからと言っても日本では、この時代アイドル全盛時代。


 日本でスタ-になる為には、日本人受けするルックスと若年層に受け入れられる、ポップで軽快なリズムと振り付け。


 言ってはなんだが………?歌唱力は二の次三の次、受け入れ易い音楽性とキラキラ輝くスタ-性。

 当然、実力と歌唱力両面備わったアイドルもいたのだが………。



 一九七〇年代はまさにアイドル全盛時代である。

 天地真理、南沙織、小柳ルミ子、麻丘めぐみ等に始まり一九七三年には中三トリオの山口百恵、桜田淳子、森昌子、更には一九八〇年代もその勢いのまま、勢い留まる事無く松田聖子、中森明菜等々のアイドル全盛が続くのだ。

 また男性アイドルも、キラ星の如く続々登場した時代。


 リンダは、あまりにも日本人離れしたルックスと、音楽性の相違から楽曲に恵まれず、くすぶり続けている。



 そんな事も有り、一九七八年六月もう直ぐ二十三歳のリンダは、兼ねてより交際のあった佐々木雅彦とめでたく結婚した。

 リンダもそれだけ夢を諦めてでも、雅彦と結婚したかったという事なのだろう。


 それと、仕送りしたお金で、無事弟も念願かなって大学を卒業して、大手の日経企業ホシノ自動車フィリピン工場に就職することが出来た。

 その為に、仕送りも減って来た事から結婚に踏み切ったのだ。


 それでも…あれだけ一途にリンダを思い続けた雅彦の父大蔵が、到底OKを出す筈が無いのでは………?


 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 大蔵は念願かなってやっと二人だけで、ほんの数時間過ごす事が出来たのだが、それでも今まで味わった事の無い夢心地の時間にすっかり舞い上がってしまった。


{もう妻子など、どうなっても構わないリンダが全てだ!}

 その感情が益々抑えきれなくなっている。


 その後も金銭と引き換えに度々会うチャンスに恵まれた大蔵は、すっかり都合のいい妄想に取り憑かれているのだった。


「幾らお金と引き換えに会ってくれていると言っても、あれだけのルックスと『ホテルパシフィックOCEAN・湘南』の専属歌手が、プライドもあるだろうに、只のそこらの商売女のように金だけで会ってくれる訳が無い!………絶対に俺を一人の男としてどこか気に入っているからワザワザ会ってくれているに違いない?………その証拠に会えばいつもニコニコ簡単な物だが、何かしらのプレゼントも忘れない。俺の人生には絶対にリンダは必要だ………いくら家族の為だからと言って、人生を偽りの人生で終わらせたくない!………いずれ死んでいくのに意味のない人生で終わらせたくない!………親の選んだ女と有無も言わせぬ勢いで強引に結婚させられた俺は、本当はあの無表情で何を考えているか分からない、冴えない妻に不満だった。だが………不動産関係の良家のお嬢様、致し方なく結婚せざるを得なかった………やっと巡り合った心から愛せる女。例え世間が何と言おうと俺の人生!………意味のない人生を送るくらいなら死んだ方がマシだ!」


 そんなある日の事、愛車ポルシェで富士山と江の島を見渡せる湘南海岸をドライブ中、人通りの少ない所に車を停めて。


「…俺はリンダちゃんが好きだ❣年甲斐もなく若い娘にと思われるかもしれないが……?俺は初めて会った時から、ず~っとこの気持ちは変わらない!……いや益々この気持ちは膨れ上がり……良いだろう?」


 いきなりシートを倒し、強引にディ―プキスに及んだのだった。

 ビックリしたのは誰有ろうリンダなのである。


{彼氏雅彦の父だから、断れずに愛想を振りまいていただけなのに、又もし……?雅彦と結婚する事にでもなればと思い、良い娘を演じていただけなのに……?このような事になるなんて………?}


 只々驚きとショックで富士山と江ノ島が映える夕日スポット♪

 今まさに美しいオーシャンビュ―に染まる、オレンジ色の湘南海岸を只々泣きながら駆け抜けるリンダ。


 サザンのヒット曲の数々が生まれた湘南エリア

江ノ島と富士山が夕日に燃えて*・✶。☆


 サザンの夏の定番曲、数多い彼らの曲の中でも夏といえば、やはり『HOTEL PACIFIC』

 偶然にも『ホテルパシフィックOCEAN・湘南』の常連客、大蔵一家を取り巻く物語はこのホテルから紡がれる事になる。


『HOTEL PACIFIC』は1965年から1988年まで神奈川県茅ヶ崎市に実際に存在していた パシフィックホテル茅ヶ崎から取っていると言われている。



あれだけ活気づいて輝いていた時代も、時間の経過とともに錆びれ、鮮やかな景色は思い出の中でセピア色の<幻影>になっていく……。

*✿・*。☆⋆


【この物語は、架空の物語であり個人並びに団体は、あくまでもフィクションです】

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