第49話

「あれから7年。私もかなり老け込んでしまったな」

そう独り言をぼやき、夜に沈みゆくナールガモンの街を見下ろす。


「門出の時は近い、か」


私はこの7年間を振り返ってみた。


あれからナールガモンの街に戻ってからはひたすら陽冥の詩の研究に没頭した。

『業』についても近場の街のブラハマンに直に頼み込んで教授してもらうことに成功した。

ただひたすらにアムリタに近づこうと努めた。でも分からなかった。


私の中に秀でたものなど見つからなかった。彼女は行ってしまった。私の中では喪ってしまったもののほうは遥かに大きかった。


つい先日、私は旅に出る決意をした。

書物の収集などは全て弟子に任せっきりだった私が旅に出ると聞いて、一番弟子の陽潜はひどく驚いていた。


「もう一度、カラッダに行けば……」


会える気がする。いいや、会えるに決まっている、


もう日は落ちた。

冥の世界の最中。私はまとめた荷物の中に詩の巻を入れた。


「ありがとう、陽潜。こうして黙って出ていくことを許しておくれ」



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陽冥詩 かまきりりゅうご @hug

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