Episode 04:栞里。
とりあえず店休日の水曜日にアポを取って学校に出向くことにした。店の方はアキ兄の人徳のおかげで仕事に困ることはない。
通されたのは保健準備室。保健の先生とスクールカウンセラーの先生の共同のパーソナルスペースだ。
完全に子どもにしか見えない俺がダブった上着を羽織ってネクタイを締めて部屋に入ると鴻野先生は後ろを向いて少し笑った。失礼な。そう言う先生だって白衣にもっさりとした格好。今時珍しい太い黒縁の眼鏡。控え目に言って
「2の⋯⋯どこだったかなぁ。草笛杏璃の保護者、飛鳥井瑛士です。」
席を勧められたが俺にコーヒーを出していいかどうかお悩みの様子。お茶でもいいですよ。彼女は座るといきなり切り込んでこんできた。
「杏璃さんは2のAよ。久しぶりね。呼び方はエイジくんでいい?」
は?いきなりフランクだな。
「あれ、覚えてない?私たち10年前の同級生
いきなりのカミングアウト。クラスにいたっけ?いや俺の方こそあんまり学校に顔を出してなかったからな。
「だからプリントとかいろいろと家までいちいち届けてあげてたじゃない。あんた給食の時間しかいなかったんだから。」
あ、あの時のクラス委員長かぁ。⋯⋯お世話になりました。
「すまん。お前『委員長』って名前じゃななかったんだな。」
「それどこの独裁国家よ。⋯⋯まあいいわ。私がこの街を出ることができたのは上級の魔法に目覚めたからなの。」
「ほう。よかったね。でもまたこの街に戻ってんじゃ元の木阿弥じゃん。はい残念。」
「違うわよ。今は任務で来てんの。」
いいんちょ⋯⋯じゃなかった栞里がコーヒーを一口飲んだ。
「あれ、そういや杏璃のプリントじゃ
「違うわよ。鴻野は偽名よ。」
「それより今日は杏璃の話を聞きにきたんだが。」
「ええ、いいわ。」
委員長が⋯⋯いや栞里がこの街を抜け出せたのは「鑑定」という魔法のおかげだそうだ。自分語りかよ。今はこの新東京の魔法動力設備を保守管理する東京マジカルダイン社という会社に所属しているのだと言う。ちなみに本人たちはTMDと略しているが新東京の住民は「公社」と呼んでいる。エリート面してるが新東京での役割は清掃局や上下水道局と大して変わらないという皮肉をこめて。
「まず、あなたが『縮んだ』原因よ。」
確かに「幼くなった」俺をすぐに「飛鳥井瑛士」と見極めたからにはその理由を知っているのだろう。
「あなたは『マギ』に認められたからよ。」
「マギ」とはこの新東京を事実上支配する魔力結晶と人工知能の結合体だ。30年前のテロ事件によって誕生し、テロの攻撃を阻んだものの、公社の管理を一切受けつけない状態になってしまったのだ。どうにかしてコントロールを取り戻そうと腐心しているのである。
「マギはあなたの人生経験の一部を対価にあなたの中に魔法回路を作ったの。ちょっとどんな魔法か鑑定させてくれる?」
「なあ、魔法回路ができるとみんな身体が縮むのか?」
「そんなことないよ。人によってまちまちかな。対価として人生経験10年分を取られるってのは割とよくある方だね。私もそれがよかったなぁ。アンチエイジング、素敵じゃん。」
「それ24歳の表現ちゃう。」
「うっせぇわ。来年にはお肌の曲がり角なんだよ。あー肌だけでいいからJKに戻りたい。ちょっと肌触らせて。あームカツク、男の子なのにすべすべとか。水とかめっちゃ弾きそう。あー殺意わくわー。」
頬をつねるな!⋯⋯女子会トークかよ!どうやら鑑定の結果が出たらしい。
「はーっ」
栞里は心底嫌そうに大きくため息をつく。なんだよ。文句あんのか?
「⋯⋯『ダイヤモンド・ダスト』。最強の強化系魔法の一つね。」
「『一つ』ってなんだよ。幾つもあったら最強とは言わんじゃん。」
「バカなの?術式が最強なだけでお前みたいなチ●カス野郎が使ったら台無しになるに決まってるだろうが。」
え⋯⋯?口悪ぅ!
「とりあえず杏璃さんのお父様である草笛晃弘氏が持ってた力をあんたが引き継いだのは間違いないわね。もし
いちいちムカツク言い方だな。だいたい、こいつってこう言う性格だったっけ?昔は絡みが少なかったからまるで記憶にない。
「断る。」
「なんで?私アンタにとっては『
心底不思議そうな顔をするから始末におえない。ハカセポジションってなんだよ?
「そんなん実践でなんとかするよ。まあ何かあったら相談するさ。」
「いいけど、そん時は高ーくつくからな。」
その「何か」はその日の晩に起こってしまった。
東京アヴェンジャーズ 風庭悠 @Fuwa-u
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