昼の生首(生首シリーズ第2話)

 かつての習慣のせいか、昼はとてもねむい。

 首だけになったいま、どう語ったところで負け犬ならぬ負け狼の遠吠えだが(胴があったころは狼に変化してブイブイ言わせていたのだ!)、私はこのあたりの人々に三百年にわたって恐怖をもたらしていた吸血鬼だった。

 いまだって吸血鬼なのには違いはないが、恐怖をもたらすには至っていない。

 まあ、首だけだからな。

 初対面の人間をぎょっとさせるのがせいぜいのところだ。


 首だけになったせいなのか、従姉が飲ませてくれる血のおかげか、日光を浴びても灰にならなくなったのは良いが、過去三百年の昼寝て夜起きる習慣はなかなか改まらず、昼間はとても睡い。

 ただし、夜寝の習慣はすっかり馴染んでいる。

 つまり、四六時中寝ている。

 『寝る子は育つ』という諺もあることだし、そろそろ亡くした胴が生えてこないかと期待している。


 暇をしていると、従姉の飼っている猫がよく私のようすを見に来る。

 私は彼女……猫のことだ。従姉のことは憎からず思っている……が苦手だ。憚らず言ってよいなら大嫌いだ。

 あの嫌みったらしい黒い毛並みが憎い。

 黒は、かつて胴のあったころの私の象徴色シンボルカラーだったのだ!

 今日も今日とて窓辺で晴れ渡った空の雲を数えていた私のところに、やつはやってきて、さんざ威嚇したあげく、猫パンチで私を床にたたき落とした!

 しかし私にだって切り札はあるのだ。やつの尻尾の付け根には、ぽっちりと小指の先半分ほど、白い毛の領地がある。黒一色が尊貴の徴である魔女猫としては致命的だ。やつもそれが分かっていて、抜かりなく尻尾の角度を調整して隠している。

 私は床に寝そべって(首だけだが)たくさんのドライフラワーの飾られた天井を眺めつつ、あのにっくき黒猫が屈辱にまみれて歯がみする姿を夢想する。

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