だいたい300字の伝奇世界

宮田秩早

第1話 流れ水は、渡れないから

 橋の落成式は二十七年前だった。

 三百年の歳月に耐える橋だと、川をへだてた両国の和平を祝して盛大に行われたという。

 以来、様々な人々が往来した。

 最初は外交官、次に商人たち。

 そして習俗の違いを乗り越えとつぎ来る花嫁たち……母もそのひとりだったし、妹は一昨年、父と私の制止を振り切り橋を渡った。


 明日の朝、川の両岸は「流れ水を渡れなかった吸血鬼」のなれの果てで埋め尽くされることだろう。

 我々は古来、そうやって罪から目をそむけてきた。

 そう……母は自死した。死体は父が川岸に運ぶ手はずになっている。

 願わくば、妹の死がやすらかならんことを。

 それが異国者の運命だとはいえ。


 今夜、我が隊はこの橋を落とす。

 戦争が始まる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る