第53話 [女警察官]

「……にしても怪斗、この状況大丈夫なのか?」


 俺がそう質問した。周囲の建物が崩壊したり、ガラスが割れていたりと……被害がすごいことになっていたからだ。


「ああ、大丈夫だ。特殊な妖術を使っていてな、これを解いたら元に戻るようになってんだ」

「便利だな」

「ま、その代わりに時間が必要になるからな」


 パチンっと指パッチンをすると、パッとあたりの建物が元通りになった。


「強谷! ラーメン食いに行こうぜ、腹減ったわ!」

「そうだな。じゃあ怪斗のおごりで」

「はぁ!? なんでだよ!」

「慰謝料として」

「ぐぬぬ……まあラーメンぐらいだったらいいか」


 そのまま歩き出そうとした瞬間、『バキュゥゥン!』という銃声が聞こえ、足元の地面に銃弾が降ってきた。


「まさかこんなところで会えるとはなァ。異端者ども」


 目の前にはリボルバーを持ち、臙脂色の髪と目でタバコを加えている女性が立っていた。


「警察のものだ。アタシとご同行願おうか」


 俺はギロリと怪斗を睨んだ。


「……お前のせいで警察に御用になりそうなんだが……。どうしよう、友達やめたい」

「悲しいこと言うなよ! じゃあ……アイツを……」

「待て待て、銃を取り出そうとするな! ……なんとなくだが、ついていったほうがいいと思う。行こう」


 俺たちは大人しくこの人についていった。



###



 現在、俺たちはパトカーの後部座席に座っている。


「なぁ強谷、パトカーの中ってさ、手で顔を隠せばいいんだっけ?」

「ばか違うぞ。フードをこうやって被るんだ」

「お、俺フードがないぞ!」

「そういう場合は服をびろーんって広げてやるんだ!」

「成る程〜!」


 運転している警察官……もとい、不知火彩羽さんがちらりとこちらを見てくる。


(こいつら……なんでパトカーの後部座席乗ってテンション上がってんだ……? 最近のガキはわかんねぇや)

「彩羽さん、俺たちはどこ行くんですか?」


 疑問に思ったことを口にした。

 普通だったら警察署だろう。だが、俺たちは今手錠もつけずにパトカーに乗らされている。

 あと、なんとなくだがこの人は普通じゃない気がする。


「とあるアタシ行きつけのバーだ。折り入って話でもしようじゃねぇかってことだ」

「高校生を連れて夜のバーに連れて行く警察官なんか聞いたことも見たことなかったですね。しかも受動喫煙をさせてる」

「悪かったねぇ! 煙かったー?」


 少しイライラした様子でタバコの火を消した。

 そのままパトカーに揺られること数分、街灯すらない、路地裏までやってきた。

 その路地裏の先に、ランタンの灯りがついたレトロな扉が現れた。


「ここがアタシの行きつけのバー、〝イグニス〟だ。オラ、さっさと入れクソガキども」

「強谷、こいつ口悪いぜ……」

「聞こえてんぞクソが」


 言われるがまま、俺たちはそのバーに入った。

 中は薄暗かったが、お洒落な内装で、奥にはマスター的なイケオジがグラスを磨いていた。

 右から彩羽さん、俺、怪斗の順番でカウンター席に座った。


「マスター、いつもの。ガキどももなんか頼め、アタシが奢ってやんよ。この店はなんでも用意きるぞ」

「ラーメンも?」

「ああ、もちろん」


 俺と怪斗は味噌ラーメンを頼んだ。だが、『なんでも出る』ということで、俺はとあるものも頼んでみた。


「〝イチゴパフェ・メープルシロップ&チョコソースたっぷりかけフルーツてんこ盛り〟って……できますか?」

「もちろんでございます。ラーメンを食べ終えた後にお作りいたします」

「……それはテメェで払えよ? アタシはラーメン代しか出さねぇ」


 確かに高いだろう。だが、彩羽さんにラーメン代を払ってくれるなら、怪斗に請求する慰謝料はこちらに回せるということだッ!


「ということで怪斗、これはお前が払ってくれよなっ」


 親指を立て、ウィンクしながらそう言った。


「はぁ!? いやいやいやこれは流石に……」

「成る程、友情決裂か……」

「だぁー! もうわーったよ、んにゃろー!」

「やったぜ」

「懐が寒い……」

「俺の炎であっためてやろうか?」

「いや、お前の炎は全身燃え尽きるからやめて?」


 そんなことを駄弁っていると、彩羽さんが話しかけてきた。


「仲いいんだな、テメェら」

「まっ、俺たち友達なんで☆」

「キメ顔が鼻に付くぞ、怪斗。まあその通りだけどな。……それで、彩羽さん。どうして俺たちをここに連れてきたんですか?」


 彩羽さんがマスターに渡されていた飲み物をクイッと一口飲むと、次のように言ってくる。


「アタシと同じ、を持っていると見たからね」

「「!」」


 ……やっぱり何かしらの力を持っていたのか。

 詳しく話を聞くとしよう。

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