第37話 [ショッピングモール]

 静音と買い物をする当日。

 俺は適当な服を見繕ってそのショッピングモールの噴水前で立っている。


(まだ9時50分か。あと10分あるな……)


 首にかけてあったヘッドフォンのケーブルをスマホに挿しこみ、音楽を聴き始めた。

 そして待つこと数分、集合時間5分前に静音がやってきた。オーバーオールに黒い帽子で、おしゃれな格好だった。

 気になる点は、帽子からアホ毛が貫通していることぐらいだな。


「おはよ、強谷」

「ああ、おはよう。服にあってるな」

「ん、ありがと。実はおしゃれが好きなの。でも強谷は…………」

「……?」


 静音がじーっと俺の服装を見つめてくる。そしてこう言ってきた。


「40点」

「……なんかすまん」

「今日の目的はそれでもある。来てっ」


 そのまま手を引かれ、辿り着いた先は服屋だった。あまり服を持ってないから、普通に嬉しい。

 中へずんずん入り、ひょいひょいと服を持ってきて渡された。


「とりあえずこれ、着てみ」

「お、おう」


 試着室で渡された服装を確認する。

 黒を基調として、白と金の線が入ったパーカーとジーパンだった。

 着替え終わったら試着室のカーテンを開けた。


「ん、やっぱヘッドフォンにはフード付きパーカー。ぐっど」

「パーカーいいかもな。楽だし」


 気に入ったので、これを買ってそのまま着ていくことにした。


「あー、でも早速荷物が出ちゃったな……」

「問題ない」


 静音がパチンっと指を鳴らすと、どこからか黒いスーツにサングラスをかけた男がやってきた。


「この人に渡して」

「え、ああ……」


 着て着た服を渡すと、『お買い物、楽しんでください』とだけ言い残してこの場から立ち去った。


「今の人……何?」

「私のSP的な人」

「さすがお嬢様だな……」

「それよりこの後は?」


 小首を傾げてそう尋ねてきた。


「静音の行きたい場所に行っていいぞ? なかったら……そうだな。昼まで時間あるし、映画とか見に行くか?」

「あ、映画見たいかも」

「そんじゃ行くか」


 二人並んで映画館の方に向かって歩き始めた。なんだかいつもより視線に嫌悪感が混じっている気がするが、気にせず映画を観た後、クレープ屋で糖分補給をすることにした。


「強谷、甘いもの好きなんだ」

「めちゃくちゃ好きだな。これだけは譲れない」

「嫌いな食べ物とか、なさそ」

「いや、わさびが無理だ。辛い食べ物は普通にいけるんだが、アレだけは無理なんだよなぁ……」

「成る程。私はこんにゃくが無理」


 列に並びながら嫌いな食べ物トークをしいうちに、俺たちの版番となった。


「俺はこのバナナにチョコソースとかかかってるこれで」

「私は……このイチゴのやつ」


 代金を確認した後、静音が財布を取り出そうとしていたが、制止させた。


「俺が払うから、財布出さなくていいぞ」

「え……大丈夫。悪いし……」

「これぐらいは払わせてくれよ」


 お金を俺が払うか、自分の分は自分で払うかということで少し口論となったが、結果は俺の粘り勝ちとなった。


「はい、ではこちらお釣りになります〜」


 ニコニコとしている店員からクレープをもらい、空いている席を探した。


「席は……あそこでいいか」

「ん」


 席に座り、クレープを一口食べた。


「うま〜〜」

「ん……。美味しい」


 やはり、日本の甘味は宇宙一ィィィーーッ!!

 なんで前世ではもっと広めてくれなかったんだ、地球人。


 クレープを味わいながらも、異世界に転生してきた地球人のことを恨んだ。そしてあっという間に完食。


「ちょっとトイレ行ってくるな」

「いってら」


 尿意を感じた俺は、トイレに向かった。



###



 この後、強谷にどうやって墓穴を掘らせようかと私は考えている。

 強谷がなぜあんなに強いのか。なぜ他の人とは違うように見えるのか。


 気になって昼は寝れない。夜はきちんと寝ている。兎にも角にも、強谷の秘密を暴いてスッキリしようということだ。

 さて、強谷がトイレから帰ってきてからの作戦をどうするか考えよう……。

 まずは――


「静音ちゃん!?奇遇だね、こんなところで会うなんて!」

「…………」


 面倒な人――田辺狂吾が現れた。

 こいつは前から私にちょっかいを出してきたり、嫌な視線を送ってくる人だから、この人は嫌い。

 早く強谷帰ってこないかな……。


「も、もしよかったら俺と一緒に店回らない?」

「……ごめんなさい。私、一緒に来ている人がいるから……」

「えー? そう言わずにさ、ほら行こう!」

「やめて……」


 私の腕を掴み、席を立たせようとしてくる。

 なぜこんなにも焦って強引に連れ出そうとしているのか。


「ほら早く!」

「や……離して……!」


 私が無理矢理席を立たされ、連れていかれそうになった次の瞬間。


「おい、何をしてんだ? 田辺」

「なっ……テメェ……!」

「強谷!」


 ハンカチで手を拭きながら立っている強也の姿があった。


「こいつも誘ってたってわけではないよな?」

「もちろん。この人が勝手に来た……」


 田辺は眉間にしわを寄せながら歯を食いしばっており、怒っているようだった。


「静音も嫌がっているようだし、離してやったらどうだ? 離さないんなら……実力行使ってなるけど……。どうする?」

「〜〜ッ! 覚えてやがれ……!!」


 そんな捨て台詞を吐いて私の腕を離し、どこかへ歩いて行った。


「はぁ……つくづく面倒な男だな」

「ん……本当に、面倒な人……」


 強谷は田辺の歩いて行った方向を見ながら溜息を吐き、そう言った。


「大丈夫だったか?」

「ん、何もされなかったからだいじょぶ」


 本当に面倒なやつ。強谷とは大違い。

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