第29話 [最強賢者vs剣豪②]
俺と桜路は、円の弧を描いているかのように移動しながら睨み合う。そして、ふぅ、と互いに息を吐き終えた瞬間に一直線に向かい、竹刀をぶつける。
――ガギンッ! ガギンッ!!
剣道場では、竹刀で戦っているとは思えないほど鈍い音が響いている。
「桜仙式――【
纏う桜の花弁のが一気に増え、桜路が横に薙ぐと、竜巻が発生したかのように風が吹く。俺は低い姿勢で片手を地面につけ、もう片腕で吹雪を防いでいた。
これ、ただの吹雪ではなかったのだ。防いでいる制服がビリビリと破けてきている。桜路の言っていた仙気とやらは物理的にもなれる存在なのかもしれないな。
そんなことを考察していると、後ろに桜路が背後にいた。竹刀を振り下ろしてくるが、俺は気配を感知できていたので応戦する。
「何ッ!?」
応戦したと思ったそれは、桜色の靄となって消えて無くなった。
(分身だと!? 仙気ってのはかなり厄介だな……ッ!)
「まんまと騙されてくれましたねッ!!」
「ッ!!」
俺の体は宙に浮いていた。足元を蹴られ、姿勢を崩してしまったのだ。
チラッと横目で下を見ると、罠にかかった獲物を見るかのように鋭い目で、竹刀を構えている桜路の姿があった。
(俺に実力があるとわかった途端、本気で殺しにきてるな!)
だが、これは試合ではなく戦い。真剣勝負? 糞食らえだッ!!
「なっ!?」
桜路が振るおうとしてきた竹刀を俺は手で掴んでみせた。そして、胴体がガラ空きになった桜路に向かって竹刀を振るうが、竹刀を離して距離を取られる。
「……まさか竹刀を鷲掴みさらるとは思いませんでした」
「くくく……。これは戦いだろ? だったらなんでもあり……だがまあ、流石にこれは返すよ」
片方の竹刀を桜路に返す。
無意識だったが、渡した竹刀は俺が使っていた方で、俺が持っている方は桜路か使っていた方だった。
(……よくわかんないなんかを感じるな。これが仙気ってやつか?)
何か……掴めそうだな。
「このまま行きますよッ!!」
「ああ……来い!!」
右からくる――と思わせて左からくる。ぐるぐると回転しながら竹刀を振るってきて、威力は普通より倍になっている。
「…………」
竹刀から伝わってくる仙気の感覚を無言で噛み締める。
こいつ……剣道をしているというか、
一撃一撃にしっかりと殺意が乗っている。
「ふんッ!!」
「くっ……!」
桜路の連撃を竹刀で流すが、後ろに押されかけている。
……あと少し、あと少しで何かが掴めそうなんだ!
その一瞬だった。戦いの他に、今掴めそうな何かにま思考を巡らせてしまったことで、一瞬隙ができてしまった。
戦いではその一瞬命取りだ。
桜路はその迷うことなく隙に入り、俺の竹刀を弾いてさらに大きな隙を作った。
「しまっ――」
「【
ガラ空きになった
魔法で体の強度上げてなかったら風穴は余裕で空いていたな。
「勝負あり……ですか?」
「ゲホッ……」
……言わないといけない、な。言わないと、気が済まない。
口を三日月型にしながら開き、俺は桜路にこう言い放った。
「――ありがとう」
「…………へ?」
「くくく、おかげで今……掴めたんだ……!!」
すると、俺の体から淡い暁色――金色の靄のようなものが出始める。
「せ、仙気……!? 誰からの教えもなしでできるなんて……」
そう、これは仙気だ。けれど仙式は使えない。色が決まっても、まだなんの形も作れていないからだ。
桜路だったら〝桜〟という形をイメージできているが、俺はなんの形もできていない不定形な靄だ。
だけど今はこれでいい。
あるもの全てを出しきれ。自分だけの〝色〟を、曝け出せ!
「スゥーー…………」
深く息を吸い、仙気を身体中に巡らせる。
左手を地面に添え手姿勢を低くする。竹刀を逆手持ちにし、自分の後ろで構える。
「だったら僕も……本気で行きますよ!」
桜路も姿勢を低くし、竹刀を左腰に添えて抜刀術をしようとしている。あたりの桜の花びらもドッと増えた。
「桜仙式……!」
互いに駆け出す。仙気を竹刀に込めて込めて込めまくる。
「はぁあああ!!!」
「【
――ガギィィンッッ!!!!
今日一番大きい音が剣道場に響き渡る。
俺たちは背中でお互いの気配を感知し合い、沈黙をしていた。
すると、ビシッという音が鳴り、俺の竹刀は粉々に砕け散った。
それは俺だけではなく、桜路のも同様になっていた。
「……僕の負けです」
床にぺたんっと座り込みながらそう言った。
「まだ戦えると思うんだが……」
「仙気の質は僕の方が上です。けれど、仙気を使い、さらには最上さんの持ってる他の何かでやられちゃうでしょうからね」
「……成る程な。んじゃ、ありがたく勝利をもらわせてもらうか」
剣豪と謳われている桜路唯花。俺はそいつとの戦いに勝利した。
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