第17話 [昼飯と嫉妬]

 その後もなんやかんやトラブルがあったが、無事に四時間目が終わって昼飯の時間になった。


「強谷! 昼飯一緒に食おーぜ!」

「いいぞ」

「いぇ〜〜い! 俺は弁当ないから学食で食べるわ。強谷は?」

「俺は弁当作ってきた」

「ハイスペックェ……」


 朔は財布を、俺は弁当を持って教室を出ようとしたのだが……。


「…………強谷、食べよ」

「静音か」


 相変わらずゆらゆらと揺れる静音アホ毛は、俺の秘密を探る探知機みたいに見える。


「朔と一緒に学食で食べるつもりだったが……静音も来るか?」

「さ、く……? 誰??」

「俺俺、井伊野朔! 今興味あるのはオカルト番組。よろしくゥ!!」


 アホ毛をクエスチョンマークにして首をかしげる静音。対して、朔は自分に指をさして自己紹介していた。


「ん、私は九条静音。今興味があるのは強谷。よろしく」

「おお〜。強谷は人気だなぁ♪」

「はぁ……。さっさと行くぞ、二人とも」


 ニヤニヤとしながら俺の方へ視線を向ける朔。

 俺は気にせず二人を連れて食堂まで向かった。



###



「んじゃ、俺はカレーでも買ってくるわ〜」


 手をひらひらとさせながら買いに行く朔。


「私は、弁当あるからいい」

「じゃあ先に俺たちで食べてるか」

「ん」


 食堂の席に座り、俺と静音は弁当の包みと蓋をを開けた。


「おお……。強谷、すごい」

「ありがとな。よかったらどれか食べてくれないか? 他者の意見を聞きたいんだ」

「ん、おけ。じゃあ、このミートボールもらう」


 ピアニストのように細くて綺麗な指で箸を持ち、俺の弁当箱からミートボールを一つ取ってパクっと口に放り込んだ。


「!」


 すると、静音のいつもの無表情は薄れてパァッと顔が明るくなった。


「すごい……すごい美味しい……!」

「よし、うまく作れたみたいだな」


 こうやって「美味しい」って見てわかると嬉しいものだな。作ってよかった。

 俺も自分の弁当の具材に箸を伸ばし、口に放り込む。


「強谷、私のもあげる」

「いいのか?」

「もちのろん」


 静音の弁当から取ろうとしたのだが……なんか、全部高級料理でどれ取ればいいかわかんねぇ……。


「強谷?」

「う、う〜ん……。どれなら食べていいんだ?」

「え……どれでも、構わない。なんで……?」

「いや、全部美味しそうなんだけど高級そうでな……」


 うーんと俺が唸っていると、静音が自分の弁当からローストビーフ的なのを掴み、俺の口の前まで持ってきた。


「……ん」


 静音、今日はよく表情が動いたりするな。

 今も少しだけ頰が薔薇色に染まっている。


「これくれるのか?」

「ん!」

「はいはい……。あーん……。ん、美味しいぞ」

「そ、よかった」


 それからというもの、なぜか静音は俺と目を合わせてくれなくなった。


「あの静音様からの『あーん』だと……!?」

「羨ましいことこの上ない!」

「でも、レベル違いすぎて俺じゃいけないってわからせられた……」

「私もあーんしてもらいたいし、してあげたい」


 ガヤガヤとする食堂の中、俺たちは黙々と弁当を食べ始める。


「カレー来たぜ〜〜! ……ん? なんか九条さん顔赤くね?」

「そ、そんなことない……」

「……? はっ! 強谷、やるねぇ〜〜♪」


 朔が戻って来て、何かを悟った様子でニヤニヤとしだした。


「何が?」

「いんや、なんでも。ってか強谷のうまそうだな。なんか一個くれよ!」

「お、いいぞ。朔にも食べてもらいたかったんだ」


 ……しかし、朔はスプーンしか持ってないな。あ、じゃあ静音と同じことするか。


「ほれ朔」

「エッ!? あ、あーん……ですか」

「食えれば問題ないだろ。それともお前、潔癖症か何かだったか?」

「いや、そーゆーわけじゃないけどさ……。九条さんが……」

「ん?」


 朔が指差す方向――静音がいる方を向くと、『ドドドド』という擬音が聞こえて来そうなオーラを放っており、アホ毛もギザギザになっていた。


「ど、どうしたんだ?」

「…………別に。……私の方が先にしたのになんで……」

「?」


 消え入りそうにか細い声で最後らへんは何も聞こえなかった。


「朔、お前の意見も聞きたいからさっさと食え」

「わかったよ! あむっ! ……うわっ、ウンマ〜〜ッッ!!」

「よかった」


 料理の腕は前世から衰えていないようで安心だ。


「うおおお! 強×朔展開きちゃ〜〜っ!」

「はぁ!? 朔×強でしょ! 逆カプは許さん!」

「尊ければ、オッケーです☆」


 なんだか食堂が一気にざわつき始めた気がするが、俺たちは気にせず昼飯を進めた。

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