第16話 [いじめは無効]

 ――ピピピピッ、ピピピピッ


「うー……。朝か……」


 スマホのアラームを止め、現在の時刻――五時半という画面を視認した。こんなにも早起きをする理由は、弁当をつくるためである。

 狐のような細い目をこすりながら階段を降り、キッチンに向かった。


 作る弁当の具材はミートボールの甘酢あんかけ、卵焼き、ミニトマトぐらいでいいか。


 数十分後時間をかけて弁当の具を作り、弁当箱に詰め込んだ。


「よし、完成っと」


 余った弁当の具は朝ごはんに回すことにした。


『この地方では、昼あたりから夜中まで雨が降るでしょう』


 テレビをボケェーっと見ながら朝ごはんを食べる。食べ終えたら皿を【清掃クリーン】で片付けて制服に着替えた。

 弁当をカバンに詰め込み、傘を持って外に出た。


「う〜む、こりゃ降るな」


 曇天の空を見上げながらそう呟き、駅まで足を進めた。



###



 電車に乗り、学園に向かって歩いている途中に雨が降ってきた。

 別に雨が嫌いではないのだが、俺の隣の席のやつは嫌いなようだった。


「うへ〜〜……。雨やだよぉぉ」


 教室について、自分の席に座ると俺に向かってそんなことを言ってくる朔。


「いいじゃないか、雨。ほら、風情とかあるし」

「強谷……なんか俺のじっちゃんみたいなこと言うなぁ……」


 ……まあ前世では余裕で千歳超えてたし、精神的にはおじいちゃんなのか?


 そんなことを考えながら、一時間目の用意をするべく机の中に手を突っ込んだ。すると、チクッと何かが刺さる感覚がした。


「なんだこれ」


 手を取り出してみると、そこには画鋲が刺さっていた。


「うわッ!? 強谷それ大丈夫か!?」

「ん? ああ。こんぐはいじゃ血は出ないから安心しろよ」

「いや心配するわ! うーわ、強谷の机ん中画鋲だらけだぜ……。陰湿な野郎がいるもんだな」


 眉間にしわを寄せて怒りを露わにする朔。俺はやった張本人である田辺に視線を送った。

 アイツは俺の方を見てニヤニヤしていたが、俺が視線を向けると同時に知らん顔してそっぽを向いた。


 ……やれやれ。今日は面倒くさい一日になりそうだな。



###



 ――現代文の授業。


「あれ?」

「んぁ、どうした強谷」


 おかしいな。机に入れてあったはずの現代文の教科書がなくなっている。

 今日は教科書の音読をするから必ず持ってきてと言われていたが……やれ、田辺の仕業か。


「なんか問題発生か?」

「いや、教科書がな……」


 横目で田辺を見る。すると気持ち悪い笑みを浮かべていた。

 そんなんで陥れてようとしても、なんだよなぁ……。


「――机にないと思ったらバッグに入ってた」

「なッ……!?」


 田辺から驚きの声が聞こえてきた。

 まあその反応は妥当だろうな。だって、本当にバッグの中には入っていなかったからだ。


 バッグの中で複製魔法を使用し、現代文の教科書を複製したのだ。だから、あるはずのない俺の教科書がバッグから出てきた。


「くくくっ……」

「……ッ!!」


 口を三日月型にして田辺の方ね顔を向けた。すると悔しそうな顔をしてきた。


(残念だったな、田辺狂吾)


 俺は心の中で嘲笑ってみせた。

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