#02 眠れないヴェロニカの苦心@魅音は失踪



少しだけ眠れたかな……今日は。

でも、やっぱり目がえちゃった。

ハル君がいないと切ないし、居れば居たで触れてこないことが辛いし。

だって、女の子と二人きりで何もないって、しかも、こんなに接触しているのに。



だから……胸が苦しいの。キュって締まって……苦しいの。

ハル君を見ていると……もう耐えられないくらいに。



ハル君の傷が癒えて、強くなるまでは決して想いを告げないように、なんて思っていたけどもう限界みたい。もっとあたしに寄りかかって欲しいし、なんなら欲望のままむさぼり食って、汚して、ハル君の色に染めてくれて構わないのに。

理性に負けても——むしろ負けて楽になっちゃえばいいのに。



いや、分かっているよ?

ハル君自分で言っていたし。もし、あたしがいなくなっちゃったら、あたしを失っちゃったら怖いって。

だから心にブレーキを掛けているのも分かるけど……それって冷静に考えたら、いつまでも、どこまでも平行線じゃない?

だって、失わないモノなんてこの世にないもの。

たとえ結婚して仲睦まじく年を取っても、いずれ死は訪れるし。

いや、それは極端かな。

でも、あたしが他の男のところに行くことなんてあり得ないから、あたしから勝手な理由で別れを告げることはしないから。そこは信用して欲しいなって。



つまり、グダグダだけど、ハル君にっていう一点が胸を締め付けるの。

信用してくれれば……もう少し触れてくるんじゃないかって。



ハル君……。



すぅすぅ寝ちゃって。こんな……あたしの気も知らないで。



我ながら蒼乃あおの邸に、こんなに寄生することになるとは……思いもよらなかったぜ。

萌々香をストーカー気質の粘着女なんて揶揄やゆしていたけど、あたしも人のこと言えないじゃない。

好きになればなるほど、ずっと近くにいて見張りたくなる……これって束縛女だよね?

ちょっとヤバイやつだよね?

あたしは痛い女でメンヘラかーーーいッ!!



自問自答して自己肯定感が低空飛行しているみたい。

はぁ〜〜〜〜すべて片付くまで……抑えようって思っていたのになぁ。

ハル君のトラウマはどうやったら……癒せるのかな。



チュっ。



ハル君の寝ているきを突いて、ほっぺにキスするくらいしかできない——彼が相手にしてくれないのが悲しいけど。

今は——理性がブレーキを掛けているけど、昼間の、それも人の多い場所で暴走してキスしちゃうのは良くないなぁ。そんな大胆な女だったとは……。

まして、葛島隆介をダシに使うなんて……言い訳にもほどがある。

シナモンやリオン姉には絶対に言えないなぁ。



あたし……こじらせているよね。

このままだと痛い女認定されて、ハル君に嫌われちゃうかも。

どうしよ〜〜〜〜〜。



「ん……うぅん。店長……俺がやりますよ……・むにゅむにゅ」

「寝ぼけちゃって。ほら、風邪引くって」



えいっ。



後ろから抱きしめてあげるの。



あんなに優しくキスしてくれたくせに、いきなりガバッと起きて「一緒に寝るわけにはいかないっ!!」なんて布団を並べて敷いてくれたのはいいけど。部屋が同じなら一緒やないかーーーーーいッ!!

結局、ハル君の布団に潜り込んでぬくぬくしちゃっているしね。

いや、そもそも部屋数少ないし、キッチンで寝るなんて言うから全力で止めたあたしのせいでもあるんだけど。



温かいなぁ。



中学、高校、大学ってハル君は——仔細しさいには——どういう生活を送っていたんだろう。

もし、あたしが普通の家庭環境で生まれていたら……もしかしたら……付き合って、毎日の登下校を、お昼を、文化祭を、体育祭を、卒業式を、入学式を。

かけがえのない時間を——青春の全ページを共有できたのかもしれない。



中学・高校と彼女はなし。大学に入って萌々香と付き合うようになり、彼の生活は、彼女の色に染まっていく。

あまり調査内容を思い出したくないからせるけど。

とにかく、バラ色の生活を送っていたわけですよ。



ハル君の中には白井萌々香しかいなかった。

あたしがきなんて全く無いほど、ハル君は幸せそうだった。

って、やっぱりあたしストーカーじゃないの……。



でもね。勘違いしないでほしいんだけど。

あたしは……。




——それでもハル君が幸せならいいって思っていた。




ハル君がすごく幸せなら萌々香と付き合っていても構わないなんて思っていたんだよ?

だって、ハル君のとなりにいることができなかった自分が悪いんだもの。

ようやく見つけたときには、ハル君はもう大学生で、当たり前のように隣には可愛すぎる彼女がいて。



愕然がくぜんとして泣き崩れて、一週間ほど寝込んだけれど。

でも、ちゃんと現実を受け止めて。



そんな折りに……ハル君の彼女が浮気をしている。

なんて情報が舞い込んで。



しかも、相手はあの葛島隆介くずしまりゅうすけだったなんて。

宿命なのだと思った。



「美羽……す……だ」

「……は?」



寝返りを打って……抱きしめられている?

え?

今、なんか重要なセリフを口走らなかった?

ま、待って。こ、こんなに力強く……もしかして起きている……?



わけ、ないか。



はやく……ハル君と付き合って、普通に恋人として隣に立ちたいなぁ。堂々と恋人らしいことをして、失われた時間を取り戻すの。

叶わなかった青春の甘酸っぱい思い出づくりとか。

一緒に旅行とかもしたいなぁ。



「ハル君。聞いて。あたしね……いっぱいやりたいことあるんだよ?」

「……すぅ……すぅ」




ブゥ〜〜〜〜ブゥ〜〜〜〜ブゥ〜〜〜〜〜ッ!



あぁ、もう!! こんな大事なシーンなのにッ!!!

スマホうるちゃいおー!!



「誰……こんな時間に」



ん?

何だって言うのよ。午前3時よ?



病院の看護師からだった。

内容は魅音姉が……いなくなっちゃったって……。



な、なんで魅音姉?

……魅音姉どこに行く気なの……。

ハル君を起こし……いや……。

バイトですごく疲れているって言っていたし……迷惑なんて掛けられないよ。



ハル君ごめんね。すぐに戻るから。

置き手紙していくから。



『ハル君へ。ちょっと出掛けてきます。一緒にいられないのは悔しくて切ないけど帰ってきたら死ぬほど抱きしめてね。ヴェロニカより愛を込めて』




シナモンとリオン姉に連絡を取ると、すでに心当たりを探しているらしいけど見つかっていないらしい。

でも、こういうときはいなくなった場所から探すのがセオリーってものよね。



病院に着くまでに結構掛かっちゃったな。着の身着のままで来ちゃったからすっぴんだし、髪はボサボサだし。ってそんなこと気にしている場合じゃないや。



エレベーターに乗って、病室に……。

あれ……魅音姉のいた部屋が伽藍堂がらんどうで、ベッドメイキングされている?



魅音姉のいた病室を看護師さんに訊いたら、ナースステーションの近くの部屋に移動になったとか。

てんやわんやしているのかと思ったら、意外とみんな冷静なのね。




「ええっと、妹さんですか?」

「あぁ……血はつながっていないのですが」

「ああ、じゃあ九頭龍美羽くずりゅうみうさんですか?」

「そうですけど……?」

「宮島さんがしきりに会いたがっていました。だからてっきり会いに行ったのかと」



こんな、それも午前3時すぎに?

いくらなんでも……それは。

魅音姉は良識のある人だと思うけど?



おそらく魅音姉がこの時間にいなくなったのは、看護師と守衛が夜勤体制により人数が少なく脱出を図るには好都合だったからに違いないよ。

もし、あたしが魅音姉の立場ならそうするし。

そもそも、脱出を図るようなことはしないだろうけど。




もうどこに行ったのよ……。魅音姉は人に迷惑を掛けるような人ではなかったのになぁ。

付近を捜索、捜索っと。いないなぁ。おまけに冷え込むし。

風邪引いていないといいけど。




それで……結局見つからず……。

リオン姉とシナモンに連絡してみるか……あれ?




あああああああッ!?




スマホを忘れてきたとか、あたしはドジっ子かーーーーいッ!!



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