#18 冷たい口づけ 強がりのヴェロニカ@3rd
満天の星空だけど……やっぱり寒い〜〜〜〜っっっ!!
大晦日の夜は……
ってことでヴェロニカを連れてきたわけだけど、残り二人とトーカは寒いからいいやって。
なんだかシナモンちゃんとリオン姉の元気がないんだよな。
腹でも壊したのかな。
しかし、本当に出不精だよなぁ。
「寒いぉ〜〜〜〜えいっ」
「……もうくっつくなってソーシャル……」
「イヤ。ソーシャルディスタンスサービスはヴェロニーちゃんのご要望により廃止になる運びとなりました。申し訳ございません。またの機会をお待ちしております。ありがとうございました」
ああ、そうそう。なくなっちゃったんだよね。結構良かったのになぁ。ソーシャルディスタンスって言葉があるだけで遠ざける理由になるもん。なくなっちゃったのかー。今後どうやって距離感保とうかな〜〜〜〜なやむ〜〜〜。
って違ッ!!
「なんで勝手に廃止してんだよっ!! そうじゃなくて……誰かにこんな……いくら寒いからって腕組みしているとこ見られたら……」
「見られたら?」
「ヴェロニーにへんな噂が立つっていうか。ほ、ほら……ヤバいだろ? なにかと」
「……ぜんぜん?」
「……と、とにかくダメなものはダメなの!!」
「いいじゃんいいじゃん。それに……厚着だから全然感触なくて寂しい」
「ん? 感触がどうとか言ったか?」
「なんでもな〜〜〜いっ! ほら、お参りの列が進んだよっ!」
そんでもって、ヴェロニカも
いつものように調子を合わせようとしているのかもしれないけど、どこか上の空なんだよな。
よしよし、用意してきた賽銭入れて。おっと、シナモンちゃんとリオン姉、それにトーカの分もちゃんと入れよう。手を合わせて……。
みんなが健康で過ごせますように。ヴェ……美羽が健やかに……1年を過ごせますように。
「ハル君があたしをもっともっと大好きになって、健やかに元気よくあたしを押し倒してくれますように」
「……願い事漏れてるけど、なんか俺のこといった?」
「あーいやいやいや。ハル君が元気になるように、ってお願いしたの」
「……俺元気だけど?」
「んー。心の問題かな。えへへ。いいからいいから。ほら、後ろが詰まってるから」
「あ、ああ」
甘酒をもらって、ほら、ヴェロニー。
で、俺の分も。
「あっついね〜〜〜熱湯じゃん」
「ぬるいと冷めるからな」
「空……キレイだね。小3の頃、ここで偶然会って、少しだけお話したんだよね」
「ああ、そうそう。あんときもすげえ寒かったよな」
「うん。ねえ……ハル君」
「ん?」
また小指か。今度は何を思い出してるんだ?
ん……ま、待て。なぜ手を繋ぐ。
こ、こんなに冷たい手をして……。
二人して素手だもんな。手袋してくればよかったな。
気が利かなくてごめんなヴェロニカ。
「手が冷たいからか? 仕方ねえな。ほら、甘酒で温めろよって、もう飲み干してるじゃん。早ッ!! 俺なんか猫舌で飲めねえよ。ま、待て。なら俺のやるからって、あああああ!? 俺のまで一気に飲み干すなーーーーっ!!」
「寒いよぉ〜〜〜」
飲まないで、甘酒の入った紙コップで温めればよかったじゃんかよ。
「触って」
「え……」
冷たい頬だな。それにしてもキメ細かい肌だよな。待て。すっぴんだったのか。気づかなかったけど、メイクしてないじゃん。それでこんなにキレイなの?
嘘だろ?
「素のあたし。キモチも素だから」
「い、いや意味が……」
「ハル君に聞いてもらいたいの」
「……なにを?」
「あたしの話。あたしのことハル君には知ってもらいたいってずっと思っていて。それに魅音姉のことも」
魅音さんか。そういえば元気かな。
また会いたいな。なんだか癒やされるんだよな。
あの話し方とか、優しい笑顔とか。
「あたしの両親は工場経営していたでしょ。経営難になって、借金苦で夜逃げしたって話」
「ああ……うん」
「あれ……本当なの。それで、あたしを置いていったのはきっと」
「……うん」
「この世からいなくなるのが目的だったんだなーって子どもながらに思っていた」
「……う、うん」
そうだろうなとは思っていたが。まさかそれを口にすることはしなかったけど……。
「前に言ったように、傷が癒えていないなんてことはなくて、あたしはむしろ強くなったと思う。おばさんの家に引き取られたけど、そこで兄妹に
「ま、待て。そんな酷いことを?」
「うん。今考えると家族が鬼だよね」
「い、いや……そんな平然と話す内容か?」
「いいの。それで、気づいたら病院に児相のワーカーさんが来て、施設に入ることになって。おばさんの家族がどうなったかは分からないけど、施設でも人間不信になっちゃって」
なんでそんなに強いんだよ。いや、待て。美羽はどうしてそんなに素直に生きてこられたんだ? 何を信じて生きてきたんだ?
もし、俺が同じ立場だったら……今頃どうなっていたか。
「
「……マジかよ。あの二人もそんな経験をしていたのか?」
「うん。それで、あたしの方が幾分マシだって思っちゃって」
「い、いや……どっちもどっちだと思うぞ?」
「……そうだね。で、施設でも当然イジメられたわけね。あたし
「……そっか。すごい人なんだな……魅音さんって」
「さっき病院から連絡があって。年明けそうそうに……先生から話があるって。魅音姉は……余命1年を切ったんだと思う」
——え? あのほわほわしていた魅音さんが?
「な、なんで?」
「難病なの。施設を出て働き始めてしばらくしたら足に力が入らないって。格闘技していたから……それで筋肉か関節を痛めたのかなって思っていたらしいんだけどね」
「……うん」
「魅音姉は、あたしにとって本当の姉みたいな人なの。だからね……ごめん」
「み、美羽?」
「ごめん、今だけは、こんな日だけど——こんな日でごめん。少し泣いていいかな?」
「あ、ああ」
美羽は……大粒の涙を流して……俺に抱きついて。
わんわん泣いた。こんな美羽を見るのは初めてだ……。
俺の知る限り、美羽が泣いたことは一度もない。
両親が失踪したときにも、だ。
そうか。シナモンちゃんとリオン姉の前では泣くことが許されないんだ。
だって、あの二人は魅音さんにとっても本当の姉妹だ。その姉妹を差し置いて弱音を吐くわけにはいかないって思っているのかもな。
それで……俺と二人きりになったタイミングで。
お、俺なんかで……いいのか?
美羽の悲しみを……俺が……受け止められるのか?
やべえ。手が、手が震える。で、でも、俺……。
そっと、美羽を抱き寄せて……。
こんなに
話して……くれたのは、俺を信用してくれているから、だよな?
美羽にとって、俺って……どんな存在なんだろうな。
美羽……俺が美羽を……。
きつく抱きしめて。壊れそうなくらいきつく。
言葉じゃ言い表せないから……せめて……。
「え? ハ……ルくん?」
「美羽、俺……美羽を受け止めるから。だから、たまに……そういうの吐き出してくれよな。俺にはきっと、そんなことくらいしかしてやれないから」
「——うん。ハル君あったかいね。いつも……あたしを支えてくれてありがと」
ん? いつも?
「辛いときは……いつも……思い…………いたんだよ」
え。
ふわりと感じるキャラメルの薫りは……髪の。
俺の両頬に……冷たい指が……震えて。
美羽が……美羽の…………唇が……冷たい唇の感触が。
俺の……唇を塞い……だ。
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