#07 ケーキ大作戦@葛島カップル参戦



とにかく寒い。寒すぎる。

こんな寒いのに、この山積みのケーキを売りさばくとか正気の沙汰さたじゃねえよ。

だって、クリスマスイブだぜ?

ケーキとかって普通、予約して買うものなんじゃねえの?

当日の街頭販売とか……まあ、ケーキ屋の店長が知り合いでよくしてくれるから、手伝う気は満々だけどさ。



しかも、しかもだ。バイトの女の子——JKだよJK——がドタキャン。俺1人で売れるはずねえだろう。



「ケーキどうっすか〜〜〜?」



誰も見向きもしねえ。こんな午後1時にケーキ買ったって、イブだしみんな夜まで遊ぶだろうよ。そしたら、邪魔じゃん。ケーキの箱なんて。ナマモノだし。要冷蔵だし。




寒い。風邪ひきそうだな。サンタの衣装思った以上に薄着だしなぁ。



ああ、なんてこった。小雨が降ってきやがった。

ケーキを濡れないように、テーブルを軒下に入れてっと。

これで完売は絶望的になったな。



「ハ〜〜〜ルきゅん♡」

「ハルさん大丈夫ですか〜〜?」

「ハル殿、ほら」



ホッカイロ温ったけ〜〜〜〜♡

誰……?。



「み、みんな、どうした?」

「クリスマス・イブなのにケーキ売りするっていうから様子見にきたの。絶対に売れないだろうなって」

「マジで。一箱も売れないし、雨は降ってくるし。散々だよ」

「でしょうね……」



みんな厚手のコート着て、暖かそうだなぁ。

と思ったら、なんで脱ぎ始めるんだよ……。



ひっ!! ちょ、ちょっと、やばいって。




「さ、3人とも……」

「な〜に? カワイイでしょ!」

「ちょ、ちょっとスカート短すぎませんか……いくら網タイツ穿いてるって言っても……ヴェロ姉に任せたわたしがバカでした……」

「短くても、心頭滅却しんとうめっきゃく!! 熱いと思えば熱い!!」

「リオン姉、それ、わたしの言っている意味合いと違いますって……」

「どう? ハル君。セクシーサンタの衣装。カワイイでしょっ♪」



か、カワイイと言うか、エ、エロいというか。

め、目のやり場に困るだろうがぁぁぁぁぁッ!!



「待て。なんでそんな格好してんの?」

「決まってるじゃない。手伝うの。ハル君のバイトが早く終わってくれないと、イブデートできないじゃない」



俺とイブデートなんて絶対にしたいわけないのに、バイトを早く終わらせる口実をつけて。ヴェロニカはなんでそんなに優しいんだ。うぅ……泣けてくる。



「ヴェロニカ……みんな……ありがとうっ」

「泣かないでくださいよ。ハルさん。わたしもこういうのやってみたかったんですし」

「ああ、そうだな。この寒さの中で、薄着で鍛える修行そのものだからな。よし、気合いれていくぞーっ」

「「「おーっ」」」



だから、その勝鬨かちどきさ。なんなの。

見るな。早くしろ視線いらないから。

うぅ。



「おー……」




だが、効果てきめん。とんでもない破壊力の衣装を身に纏ってるからなのか。

客の視線が痛いくらいに刺さるわ。



「ケーキどうですかぁ〜〜〜っ!! あ、お兄さんお兄さん、ケーキどうですかっ! 今なら、ヴェロニーと握手できちゃいます♡」

「カ、カワイイ……ヴェロニーのセクシーサンタコスプレだ……」

「お兄さんケーキどうですか〜〜〜?」



う、上目遣い……。ヴェロニカの破壊力パねえ……。



「わ、わたし……その握手とかは……だ、男性の手とか握ったことない……でしゅ」

「僕、シナモンちゃんの大ファンなんだよね。本当にそっくりでカワイイなぁ」



衣装に恥じらうシナモンちゃんも可愛いな。




ヤバいぞ。これはヤバい。

人だかりができて、道を塞ぎ始めた。な、なんだこれ。

仕方ねえ。俺が交通整理するしかねえだろ。



な、なんだなんだ。なんでこんなに集まってくるんだ?

まさか。

スマホを取り出してニューチューブでP・ライオット検索。



『パーティー・ライオットに激似!! ケーキ屋の売り子がネ申!! LIVE配信中』



ぬああああ。誰だッ!! 

あほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!

そんなの流したら、こうなるに決まってんだろ。



あああああ。交通整理してたら、テーブルまで戻れなくなった。人多すぎ。みんな傘さしているから余計に身動き取りにくいな。



「すみません〜〜〜店員ですっ! 通りますよ〜〜〜」



ふぅ。交通整理なんてしても無駄なことが分かった。

それよりも早くケーキをすべて売りさばいて、解散しよう。それしかない。



「お、押さないで〜〜〜ケーキはまだまだありますから〜〜〜」




「よお。春輔しゅんすけ〜〜〜」

「ハル君、サンタ衣装似合ってるね」



なんでこんなところほっつき歩いてんだ?

葛島隆介くずしまりゅうすけ白井萌々香しらいももか……。

マジで相手にしている暇なんてねえのに。




ああ、うざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざいうざい。




うざぁッ!!!!!




「あら♡ いらっしゃいませ〜〜〜このご時世にマジでファ◯クな密男みつおの葛島さん♪ ケーキを買いにきたのですかぁ〜〜?」

「この前の名刺はやってくれたな。だが、寛大な僕は怒っていない」

「な、なんだかお前、顔れてないか?」

「ば、馬鹿言え。僕が殴られるなんてことあるか」

「……あっそ。んで、ケーキ買うのか買わないのか? とんでもないことになってるから、突っ立ってると……」



人だかりの波に押されて、隆介が盛大にコケた……。しかも、転ぶ最中、萌々香のコートを引っ張ったものだからさぁ。



「きゃぁぁぁぁぁッ!?」



萌々香も道連れ。それどころか萌々香の奴、ケーキの箱に手を掛けちゃって2箱落ちちゃったよ。




ああああああ。

箱の蓋が空いて、隆介と萌々香の頭にベチョーって。生クリームが。

てめえ、どうしてくれんだよッ!!

商品は買い取ってもらうからな。



「はい、2箱お買い上げで、七千円になりまーす♡ あ、ちなみにイートインできないので、そのまま箱に戻してお持ち帰りくださいね♪」

「りゅ、隆介さんと萌々香さん、盛大に踏まれていますけど大丈夫なのでしょうか? ああ、ヴェロ姉……どさくさに紛れて例の名刺とホッカイロのセットを隆介さんのコートのポケットに……」

「大丈夫だろ。それよりも、ケーキの残数が少ないぞ? ハル殿、バックヤードにまだあるのか?」

「ああ、ありますあります! でも残り30くらいですかね」

「よし、早く売って撤収するぞ」



さっきまで寒いと思っていたのに、今は汗ばむくらいに暑い。人の熱気がヤバい。



「ハ、ハル君……あ、あたし心を入れ替えるか、だから見捨てないで」

「その……いかがわしい関係をもった奴と一緒に? どう入れ替えるって?」

「ち、違うの。隆介君が謝りたいって。それで」

「はいは〜〜いっ! ハル君、ケーキなくなっちゃったから、早く取ってきてくれる?」

「あ、そうだな。萌々香、話は後だ。ケーキ取ってくる」




萌々香の奴も相当切羽詰せっぱつまった顔してたな。

できればもう会いたくないっていうのが俺の本音なんだが。

この前からやけに俺に関わりを持ちたがるよな。

今は忙しくてそれどころじゃねえな。




ケーキは、確か端の冷凍庫だったよな。これを台車に載せてっと。



はい、外に持っていったら一瞬で完売。



「3人ともありがとうな。まさか明るいうちに売れるなんて思っていなかったから」

「いいってことよっ!! ハル君のためだし。あたし達もケーキ一つ買ったんだ。てへっ! シナモン、持って帰ってくれる? ハル君これで終わりでしょ?」

「ああ、うん。売り切ったからな」

「よしよし。じゃあ、ハル君ちょっとだけデートごっこして帰ろう?」

「またデートごっこか。早く終わったのもヴェロニカ達のお陰だしな。よし、いいぞ」

「やったぁ!! じゃあ、どこかで着替えるね!!」

「ヴェロ姉いいなぁ。わたしもイブだし、どこか遊びに行きたいなぁ」

「シナモン。私とデートするぞ」

「……リオン姉とか。ま、いいか。あ、でも一度帰ってケーキ置いてきましょうね」



ん? なんだかケーキまみれの隆介がこっち見ていたような。

看板の陰から。

気のせいか。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る