#Interlude03 続く葛島隆介の不幸@ヴェロニカはほくそ笑む。



まさか、アレが本当にヴェロニカということはないだろう。P・ライオットの制作チームが春輔しゅんすけの近くにいるなんて。あってはならない。ならん。ならんのだぁぁぁ!! 

それもあんな親しげにしているなんて。



「クソッ!!!!」

「りゅ、隆介くんっ!?」



結局イタリアンのクソ不味まずいパスタを食った挙げ句、トマトソースが白いセーターに飛び、店にクレームを入れてやった。

怒鳴り散らしたら迷惑そうな客がいたんで、にらみ返してやった。世の中、本当に終わっている。

世も末だ。



そんなことどうでもいい。いや、どうでもよくないな。

8万円もするセーターだぞ。大好きなデザイナーのブランドの服だったのに。



「お前のせいだッ!! なにがヴェロニカに似せているだッ!!」

「だ、だって。まさか本物だなんて現実的じゃないよ……」

「お前がしっかり、春輔のリサーチをしていればこんなことにならなかったんだ! もう許せん。いいか、もう一度、春輔と付き合ってこい。それでちゃんと調査して、僕に報告だ。分かったかッ!!」



なんだ、その反抗的な目は。僕に楯突たてつこうなんて身の程知らずのクソ女だな。



「おい、今からうちに来い。お仕置きが必要なようだな」

「ま、待って。なんでもする。なんでもするから、それだけは……」

「ダメだ。言うことをきけないなら知らんぞ? お前の両親は確か、つつましく下町で暮らしているよな?」

「……はい」

「分かるよな? もう一度くぞ? 家に来るよな?」

「……はい。で、でも、痛いことは……イヤ——」

「なにか言ったか?」

「……いえ」



服従させてやる。家畜ブタ以下の扱いをして、それから海原かいばらにお下がりだな。いや、その前にもう一度、春輔と付き合わせてやる。どんな方法を使ってもだ。

愛人でも奴隷でも、なんでも構わない。このアホ女がどんな扱いを受けても知らん。

なんとしても春輔から情報を引き出し、パーティー・ライオットを手に入れなければ。

いや、本物かどうかは分からんが、それはこの際どうでもいい。

とにかく、あのヴェロニカを僕のモノにする。




「楽しみだ……」

「隆介くん?」

「そのために、お前に男が喜ぶすべを叩き込んでやる。いいか、なんとしても春輔をもう一度落とせ。できなければ、そのときは覚悟しておけよ?」

「……はい」




情報を抜き取るために、ばら撒かれた名刺をすべて拾ってきた。

すべての名刺の電話番号と住所は黒インクで塗りつぶされているし、『宣戦布告』なんて書かれている。

萌々香にすべての名刺を拾わせたが、どれも同じらし——っ!?



「な、なんだこれ」

「あっ!! よく見たら色々なトコが真っ黒に」

「てめえ、なんで早く言わねえんだ。なんだこのインク——くせえ。生臭なまぐせえ」

「これ……イカスミ?」

「インクにイカスミ混ぜやがったなッ!!」



仕方ねえ。路肩に車を停めるか。ハザードをけて。



「このインク、アルコールのウェットティッシュで拭いても落ちないッ!! なにこれ」

「おい、萌々香、お前顔触ったろ……」

「え? な、なんで?」

「頬が真っ黒だ……あと、眉毛が繋がってる」

「ヤダッ!! どうしようッ!!」



くだけメイク落としなんてモノでこすっても……なに!?

広がったッ!!



「隆介くんも……白いセーターにポタポタってインクが……」

「あ“あ”あ“ッッッッ!!!」

「分かった、エアコンの熱で溶ける仕組みなんだ!!」

「な、なんだとッ!」



確かに今日は冷え込んでいるからな。車のエアコンくらいつけるだろ。それにしても、手の込んだ仕掛けしやがって。

しかも、宣戦布告の文字はそのままで、その後ろに書いてあるひび割れたハートが溶けているっぽいな。どうりで、そこだけ盛土のようになってんなって思ってたんだ。

それが何十枚もだぞ。あの女ッ!!

僕が拾って帰ることを予測して……。




ブッブゥーーーーッ!! ブッーーーーーーーーーーーブッ!!




「誰だ、うるせえな。こっちはそれどころじゃねえんだよ」

「りゅ、隆介くん……やばいよ」

「何がッ!?」

「クラクション鳴らしてる車……黒塗りのベンツだけど……?」

「そんなの気にす——なにッ!?」



バックミラーには確かにベンツが映っているが。どうせイキった大学生とかだろ。



なんだか、物騒な……ダークスーツの男が3人降りてきたぞ……。



「おい、てめえ、うちの組の事務所前に堂々と停めてんじゃねえぞッ!!」



ヒゲを生やした恰幅かっぷくのいい男と、何も話さない沈黙を貫く男。

待て、待てよ。な、なんなんだ。事務所の前って……。



あ“あ”あ“ッッッ!!



普通のテナントかと思ったら、窓からガラの悪いお兄さんやらおじさんがメッチャこっち見てる。いや、にらんでるんだわ。



「す、すみません」

「それで済むと思ってんのか? あぁんッ!? 誠意を見せろや!!」

「ご、ごめんなさい、ちょっと、インクが」

「そんなら、中で話し聞こうか。ん。なんだこの女。変な化粧しやがって」

「…………ッッ」



萌々香てめえ、震えてねえで服を脱ぐなりなんなりして、誠意見せろよ。それでも僕の下僕かッ!?



「じゃあ、この女置いていきますので、煮るなり焼くなり好きに」

「兄ちゃん。自分の女置いて逃げる気か? それでも男かてめえは」

「す、すみません、僕、本当に何も知らなかったんです」

「まあいいや。降りろ」

「そ、それだけは……」

「いいから、茶でも飲んで行けや」



な、なんだ? 黒だけじゃなくて、赤、青、黄色、緑がぐちゃぐちゃに混ざった色——もはや茶色だ。萌々香の真っ白な服が茶色に汚れ——僕の服もだ。

なんだこれ。



名刺のインクがすべて溶けて……真っ白なカードに……。



「おい、てめえ、臭えな。なんだなんだ」

「萌々香てめえ、漏らしたな」

「ち、ちがッ!! 隆介くんでしょッ!?」

「んなわけねえだろっ!!」



ぼ、僕のセーターが。8万円もするのに。茶色に染まって……。

このインク、溶けると臭うのか…‥。



ヴェロニカめ。やがったな!!



「漏らしやがって。汚えな。こんな汚物どもを事務所に上げたら親父さんにどヤされるじゃねえか。仕方ねえ。ここに電話番号と住所書け」



よし。乗り切ったぞ。萌々香の電話番号書いておけばいいな。



「な、なんであたしの電話なの……」

「よ、余計なこと言うな」

「兄ちゃん、嘘つくとただじゃおかねえからな。住所もだ。車検証見せろや」



くそ。結局、ワンギリまでされて偽の番号だってバレたじゃねえか。




ヴェロニカめ。僕のモノにしたら、たっぷりとお仕置きをして可愛がってやるからな。覚えておけよ。



「なんだ兄ちゃん、その反抗的な目は」

「す、すみません」

「やっぱり降りろ。話は中で聞くからな」



た、助けてぇぇぇ。



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