#Interlude01 * 葛島隆介の所業



このクソ上司がいる限り、僕に出世はない。本当にあの上司が嫌いだ。

嫌いな奴ほどめ殺して、そのふところに飛び込めと言う。俺のコミュ力さえあれば、どんな奴の信頼だって勝ち取れる。春輔しゅんすけにそう思わせたようにな……ふふ。



「ごめんくださーい」

「あ、葛島くずしまさん……あの、主人は今日、ゴルフに」

「いいんですいいんです。僕は奥さんに用事があって来たので」

「え? わ、わたしにですか?」

「えぇ。実は、酒井さん、会社でこんなことをしていて。どうしても許せなくて」

「……?」



上司の酒井が若い子と抱き合っていた。しかも階段の踊り場で。

それをスマホでパシャリとしてやっただけ。

新入社員の顔のキレイな子を使って、嵌めさせてもらった。もちろん、その新入社員は僕のことを彼氏だと思っている。僕のためならなんでもするアホ女だ。



「な、なんですか、これ」

「酒井さん、会社で若い子に手を出しまくっているんです。でも、僕、奥さんのことを思ったら黙っていられないって思って、それで」



当然そんな事実はない。すべてでっち上げ。酒井も男だ。あんなキレイな子に迫られたら断りきれないだろう。


ちなみに酒井の嫁とは、先日家に上がり込んだときに好印象を与えている。俺のことを爽やかな青年だと思っているだろう。

くくくっ……愉快だ。今から俺が寝取るとは知らずに呑気のんきにゴルフなんて行きやがって。



「お時間よろしければ、お話させてもらってもいいですか?」

「え。ええ」



酒井の嫁は今年で27になる。スラッとした体型で胸はデカイ。うん、遊びにはちょうどいい。



それで、言葉たくみに誘って無事に寝取ってやった。控えめに言っても最高だった。



「隆介くん、あの人と別れるって言ったら?」

「……えぇ。お気持ちは分かります。僕だって、酒井さんの奥さんじゃなければ、離婚してもらって、結婚を前提に考えたいと思っています。けれど」



これだからめんどくせえ。すぐに本気マジにしやがる。くたばれ。死ね。クソ女。



「こんな過ちを犯してしまって言えることではないと思いますが、酒井さんあっての僕なんです。だから、もう一度、あの人を信じてみてはどうでしょう?」

「だって、あんな奴。浮気はするし。それにずる賢いのよ。株で儲かったお金を隠していたんです」

「え? その話詳しく教えてもらえませんか?」

「ほら、この前、インターネット大手の、あそこと」

「ああ、ええ。うちの会社との提携ですね。業界では話題沸騰でしたね。以前より犬猿の仲って言われていましたし」

「その情報を早くから知っていて、自社株をかなり買い込んでいたらしいんです」

「え……」

「それで、かなり株価が上がったじゃないですか。すごく儲かったくせに教えてくれなくて。独り占めしようとしていたんですよ。もう、ほんとにケチなんですよね」

「奥さん、その売買の記録とかって写真撮ったりできます?」

「え? そんなものどうするんですか?」

「いやぁ。僕も酒井さんみたい上手に売買したくて。いつ頃売ったら良かったのかなって気になって。あ、酒井さんには内緒ですよ?」

「……分かりました。主人には内緒で撮ってみます♡」




こうして、俺は無事に酒井を排除することに成功した。

どこまでも俺は運がいい。

あいつがリーダーを務めていたチームの功績もすべて俺が頂いてやった。

インサイダー取引という不法行為を知らないとは。それで大手広告代理店の幹部妻とか。バカウケなんだけど。



その後、クソ女がどうなったかは知らない。限りなくみじめな暮らしでも送ってるんじゃねえのかな。




ああ、愉快、痛快だな。

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