第5話 閑話


 ジャスティスたちの動きを、天界から見物しているものが二人。

 彼をジャスティスとして転生させた神と、その部下の天使である。


「ホッホッホ……これはおもろい展開になってきたのぅ……天界だけに」

「なにを言ってるんですか、神様ぁ……」


 老人の見た目をした神は、岩の上でホッホッホと、下界を見下ろしながら能天気に笑っていた。

 しかし、天使としては頭を抱える状況だった。

 このままだと『追放勇者』の世界が、大きく変わってしまう。


「もう! 放っておいていいんですか?」

「大丈夫じゃよ。物語の方の世界と、この世界とはまた別の話じゃ。こっちはあの本の元となった、でしかないからのぅ……」

「うーん、そういう問題ですかぁ……?」


 天界でずっと、じっとしている神からすれば、これはいい暇つぶしなのだった。


「それにしても、まさかここで分岐するとはのぅ……」


 神は、原作小説の『追放勇者』のページをめくりながら、下界と見比べる。


「確か、原作ではアランがジャスティスに追放され、その後でヒロインに出会うんでしたよね……?」

「そうじゃ。ジャスティスによる強制転移の魔法で、アランはダンジョン奥地に飛ばされ、そして古の勇者のほこらを発見し、そこで真の勇者に目覚めるはずじゃった……」


「でも、今回はそうならなかった……」

「そうじゃなぁ。ジャスティスの中身が変わっておるからのう。現代日本人に」


「これじゃあ、アランはヒロインにも出会わず、覚醒もしないってことですよね……!?」

「そうなりそうじゃな……。それどころか、ジャスティスを刺して、アイテムを奪ったという罪を犯しておる……。アランの行く末は、悲惨なことになりそうじゃわい……」


 そう、本来であれば起こったであろうことが、転生者ジャスティスの行動によって、書き換わっていっているのだ。

 それが、物語におけるイレギュラー、転生者。


「一応、アランには運命力が働いておるから、どうなるかはまだまだわからんがのう」

「運命力……? なんです、それは……?」


「物語を自分の方へ軌道修正する力じゃよ……。いわゆる主人公補正というやつじゃ」

「ふむふむ……じゃあ、アランはこの後、物語通りにヒロインと出会えるんですか……?」


「それがそうとも限らんのじゃよ」

「え……!? なんでですか……!?」


「強い運命力を持っているのは、転生者も同じじゃからな」

「なるほど……じゃあ、主人公が二人いるっていう状況なわけですね」


「そういうことじゃ」

「それってかなりマズイ状況なんじゃ……」


 物語の正規主人公としての運命力、転生者としての運命力――そのどちらが強いのか。

 運命は、どちらに味方するのか……。

 それは、神にもわかり得ぬことだった――。


 だが、思い込みというものは恐ろしいもので。

 いわばこれは、どちらが強く自分を「主人公」だと信じられるのか、という問題だった。

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