第3話 宇宙哲学



 兎のムーがマレーロの家に着くと、マルセリーノは呼び鈴を鳴らした。鳴らした。・・・鳴らしたが誰も出てくる様子がないので、マルセリーノはそっと玄関の扉を開けた。

「邪魔するでー、ちょっとー、誰も居らへんのかなー」

そう言いながら奥へ入っていくと、

「相変わらず暗い部屋やなぁ、明かりが蝋燭だけっていうのもどうかと思うわ」


「お久しぶりです、マルセリーノ統括教授」

「うわっ!、びっくりするやん。急に声かけんといてーや」

「申し訳ありません。瞑想をしていたものですから」

「まぁ、勝手に中へ入ったワイも悪いねんけど」

「構いません。どうぞこちらへ」

そういうとマレーロはマルセリーノを居間へ導いた。


マルセリーノは低いテーブルの前で胡座をかいた。

「少しお待ちくださいね。お茶を入れますので」

そう言うとマレーロは台所へと歩いて行った。


お湯を沸かし、茶葉を用意しているマレーロの背中にマルセリーノが声を掛ける。

「お前、相変わらず質素な生活してるねぇ」

「はい、贅沢という世俗の欲望は精神を貧困にさせますから」

「ふーん、そんなもんかねぇ」

などと話をしている間に、マレーロは二人分のお茶をテーブルに置いて着座した。


「で、どないなん? 宇宙の真理は掴めたん?」

「真理などありません。全ては無ですから」

「それは分かるけど、無いんやったら追求する必要も無いんちゃうん?」

などと言いながらマルセリーノはお茶を啜る。


 マルセリーノがマレーロの家に立ち寄った時に始まるいつもの会話である。


「無いものを無いとするのでは無く、無いものに心を向かわせるのです」

「そうかぁ、相変わらず難しいこと言うなぁ」

「統括教授のような凡人には分からないと思います」

「お前なぁ、いっつも思うねんけど、めっちゃ上から目線やんな。なんか腹たってくる時あるわ」

「怒りはエネルギーとして放散され、それを食べて生きる無形のものと共に生きなければなりません」

「はいはい、そして魂は次元を下げて生きる、でしょ」

「そうです。魂は喜びと共に」

「お前、悩んだ事ないの?」

「悩みとは、今ある出来事を受け入れないからこそ起きる現象でしかありません」

「それなぁ。ワイが悩んだ時にお前がいつでも言う言葉やんな」

「統括教授は凡人ですから」

「何んか、腹たつ気持ちも失せてまうわ」

マルセリーノは二口目のお茶を啜った。


「で、兎に乗って来られたのですか?」

「せやで」

「では、ムーさんに乗って?」

「うん、あいつ今頃、玄関で寝てるんちゃう」

「いえ、ムーさんは私達の会話を聞いているでしょ」

「それ無いわ、あいつアホやしな」

「やはり統括教授には分かりませんか」

「どう言う事? なんか皆んな、あいつのこと好きみたいやねんなぁ。ワイには、めっちゃとぼけた奴やねんけどな」

「それは、ムーさんが賢いからですよ」

「うーん、お前の言うてる意味が其処まで分かりかけてんねんけど、具体的な理会が出来ひんわ」

「それは統括教授が・・・」

「ちょっと待った! 凡人やって言いたいんやろ」

「・・・・・・・・・。」

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