第5話

バッチリと目が合った。清香の目は大きく見開かた。

「清香、ちょっと昨日の件で…。」

「昨日?なんのことですか~?」

清香は可愛らしく小首をかしげる。

「へっ?夢だよ!夢の話!」

「…?記憶にないのですけれど〜?」

コイツ、とぼけているのか?

「昨日話したじゃないか!図書室で!」

「あら〜?昨日私は図書室に行ってないと思うのですけれど〜?」

おかしい。何かがおかしい。清香が嘘をついている気配はない。だ。

人が嘘をつくときには、何らかのサインが出ることが多いという。プロの詐欺師でもない限りは。清香は詐欺師の才能の欠片すら見ることができないほどの正直者だ。嘘をつくときには、不自然なところが出てくるはずだ。しかし、彼女はだった。

「う〜ん…。記憶違いじゃないですか〜?もし本当に私が図書室にいたのならば忘れるはずもありませんし〜。」

それもそうだ。彼女は日本一と言ってもいいほどの規格外の記憶力を誇る。どんな文章でもパッと見ただけで覚えるし、あった人の名前は全て記憶している。それもフルネームで。そんな彼女が昨日の一件を忘れるはずがなかった。

「あ…ああ。そうか…。記憶違いみたいだ。すまんな…。」

じゃあ、昨日の清香、もとい、清香に似ているやつは誰だったのだろう…?彼女の美貌は誰にでも真似できるほどのものではない。並大抵の努力では無理だ。否、どれだけ努力をしても無理であろう。それこそ整形であっても。

「いえいえ〜。誰にでも間違いはありますよ〜。では〜。」

彼女はゆっくりと歩いて去っていった。

「どういうことだよ…。」

謎が残った。否、正しくは謎が増えた。一つから二つに。一つは夢。他方は現。

唯一判明していることは、清香からは何も情報を得られなさそうだということだ。清香は何の情報も持っていない。

 ふいに、ある人物の顔が思い浮かんだ。アイツなら知っているかもしれない。俺は階段から背を向け、ある教室に足を運ぶ。

コンコンコン。

「失礼します。」

「あら、何の用かしら?私は今とても忙しいのだけれど。」

先程まで本に夢中になっていたサファイア色の目がこちらを視線をよこす。

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かみをきりたい俺とかみをきりたくない私 るり @k197

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