Final Day. カオリとカオル~見つけた?!真実の愛~

 遂にやってきた最終日。


 昨日1日、色々考えた結果。


 まだ少し悩んではいるものの、聡に傾いている自分がいる。


 今まで認めたくなくて無意識に目を背けていた現実を、そろそろ直視した方がいいのかもしれない。


 僕はもう女のままでいいのだろうか。聡がいてくれたら、それでいいのか。最後の抵抗を試みるも。


 今日こうして聡を待つ間も、無意識に心拍数は上がり、ときめいている自分がいる。


 待ち合わせ場所でソワソワしながら、聡を待つ。


「よっ、待ったか?」


 聡だ。


「ううん、そんなに待ってないよ?」


「そうか。今日は大事な話をしようと思ってな。」


 !!


 都合のいい期待をしてしまいそうになり、慌てて心にブレーキをかける。そして――


「今日、遥に告白しようと思う。」


 聡から告げられた言葉は、僕の心をズタズタに引き裂くのだった。


 そういえば。今思い出した。まだカオルだった頃、ふざけあって聡と好きな女の話をしたことがあった。


 確かにあの時、冗談めかしてはいたが遥の名前を出していた。


 ショックに目の前が暗くなる。


「なんでお前が泣くんだよ!」


 冗談めかして聡は笑うけれど…涙は止まってくれない。でも、聡には幸せでいて欲しいと願ったら、泣き笑いみたいな変な顔になった。


「なんだよ、お前も遥のこと好きだったのか??」


 少し的外れでもあり、少しあたってもいる一言を放つ聡は、さらにこう続ける。


「なあ、頼みたいことがあるんだ。」


「何?」


「俺の告白、お前に見守って欲しいんだ。」


 !!


 なんて残酷なことを思いつくんだ、聡のやつは!!


 もし目の前で遥と聡がくっついてしまったら――


 なんかもう色々絶望しかない。断ろうとした矢先、


「聡!カオリ!用って何??」


 何も知らない遥がやってきた。


 ――ああ、もう逃げられない。


 ここまで来ては、俎上の鯉である。


「遥、聞いてくれ!」


 聡の告白が始まった。


「俺、初めてあった時からお前に惚れてたんだ。カオルに悪くてずっと言えなかったけど……俺と、付き合ってくれ!!」


 最悪な気分で僕はそれを聞いていた。静かに遥の答えを待つ。


 遥は考える素振りを見せたあと、


「ごめん。」


 と一言だけ言った。


「そっか。わりぃな。」


 それだけ言うと、聡はどこへともなく去っていった。


 追いかけようかと思ったが、着いてくるな、と背中が語っていた。


 沈黙が僕と遥の間に横たわった。


 ……。


 ……。




 どれだけの時間が過ぎたろう。


 ふと、何か言いたげな遥が僕の手を取る。


「薫、そろそろ戻って?」


 ??


「でないと私、おじさんとおばさんに顔合わせらんないし。」


 そこで一呼吸置くと。


 ……。


 更に沈黙が続いた。やがて遥は意を決したように口を開く。


「私、薫が好きなの!薫がこんなことになって、ここしばらく悩んで。やっと気づいたの」


 遥は僕に縋り付くように抱きついた。


 遥の温もりがうっすらと服越しに伝わってくる気がして、僕はどぎまぎした。


「昔からの腐れ縁で!!女癖最悪で!!今なんて女の子になってるけど!!それでも――好きなの――。」


 シャンプーの残り香が鼻腔をくすぐる。


 本物の女の子の、柔らかさと、いい匂い。


「お願い!!元に――薫に戻って!!」


 半ば泣きながら遥は僕の頭を引き寄せて――


 柔らかい感覚が唇にあたる。


 昨日マリが去り際に放った一言、遥の昨夜の涙声が脳内でリフレインする。


 同時に、どこからともなく湧き上がる、遥を愛おしむ気持ち――。


 なんだか遥に抱きしめられながら光に包まれている感じがする。


 この温もりを手放しちゃいけない気がして。


 遥を、守りたい。そばに居たい。


 そんな想いが遥と過ごした日々の思い出の数々と共にまざまざと呼び起こされていく――。


 気がつくと光は消えていて、遥が腕の中にいた。

 遥は、僕の顔を見るなり嬉しそうに、


「おかえり、カオル!」


「えっ?!て、ええ?!」


 驚きの声を上げ、自分で発したその声に更に驚き。


 すかさず遥が手鏡を寄越した。そこには1週間前までのいつも通りの男の僕が映っていた。


「戻れたのか!?僕?!」


「うん、うん!!」


 未だ驚き冷めやらぬ僕に、遥がしっかりと頷いてくれる。僕が僕に戻れたことを、僕以上に喜んでくれているかのようだ。


「遥……僕が男に戻るの諦めないでいてくれてありがとう……君がいなかったら、僕は――。」


 思わず語尾が掠れる。すると遥は少しイタズラっぽく微笑み。


「ふふふ!正直不安な時もあったけど……それでも信じてたよ?だって――。」


 そう言うと、自分のポケットから見覚えのあるお守りを取り出した。


「えへへ、実はあの時私も買ったの。お揃いのお守り♪」


 少し照れたように笑う。

 くそお、可愛すぎるだろ!!


 僕はあまりのことに我慢が出来なくなって、今度はこちらから遥にくちづけた。


 さっきより長く、深く。


 唇を離すと、遥は幸せそうに笑った。

 僕はこのかけがえのない笑顔を一生かけて守ると密かに決意する。


 この決意を公に表明するのはきっと大学卒業後だろう。その時にはもっと魅力的で、頼れる男になってやる!

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