Day 3.カオリの願望~困った時の神頼み~

 男に戻る期限を告げられてから3日目。


 聡と遥は共に講義が午前中のみだったようで、僕の自宅で2回目の作戦会議をしていた。


 作戦会議と言っても具体案は皆目思いつかず、各々ダラダラしているだけかもしれなかった。


「お? ちょっと面白いもん見つけたかも。」


 唯一まともにスマホで調べ物をしていた聡が急に口を開く。


「え、なになに? 見せてー!」


 横から画面を覗き込んだ遥が、おおー!!と声を上げた。


「縁結びの神社じゃん! しかもここから自転車圏内じゃない。聡、グッジョブ!!」


「神頼み、って割と最終手段じゃね??」


 イマイチノリについていけない僕。


「バカ! 昨日の時点で普通にもう詰んでるんだから!! 取れるべき手は取っておくべきでしょうが!! 今から行くわよ!!」


『ええ~今から?!』


 遥の宣言に、僕と聡の声が重なる。


「そう、今から! 時間ないんだからさっさとする!!」


 ◇◇◇◇


 遥に乗せられて自転車を漕ぐ事、10分ほど。


 住宅地の緑地にポツンと佇む神社に到着した。


 神社としての規模は小さ目ではあるが、きちんと最低限神社としての体裁は整っており、社務所では恋愛成就のお守りなどが売られている。


 僕達はまず、お参りをすべく参拝の手順に従って拝殿へと進んだ。


 普段はご縁で済ませているお賽銭も、今回は全力の願掛けも込めて1000円と奮発!!


 二礼二拍手一礼して、一息つく。


「ふぅー、これでなんとかなる、かなあ?」


 つぶやく僕に、社務所を覗いていた遥がお守りを勧めてくる。


「みてみて、恋愛成就のお守りかわい〜♪ カオリ、買いなよ!!」


「お前は神社の回しもんかっ!!」


「いいじゃん! 最悪持ってるだけでもなんか安心するし…!!」


 遥のこういう女子っぽいところ、あまり気にしたことなかったけど、ちょっと可愛いかも…??


 そんなことを思っていると、


「はい! これ。私の奢り! 有難く受け取りなさい!!」


 そう言ってお守りを押し付けてくる。受け取ったお守りは確かに可愛らしいピンク色だ。


「ありがとう。」


 なんとなく大事にしなくちゃいけない気がしてそっとポケットにしまった。


「聡もいるなら買うか? お守り。」


 冗談半分で聞いてみる。


「俺はいいから。お前が元に戻ればそれでいい。」


 !!


 真顔でそう返され、さっき遥に感じたのと同じ感情が僕の胸をよぎる。


 ええ?!まさか僕、聡に…?!さすがにそれは色々まずいだろ!!


 1人パニックになる僕。


 まさか、内面も少しずつ女性に寄って行ってる、のか?!


 だとしたら、このままでは大分まずい。


 早く元に戻らなければ、本当に7日間で身も心も女の子になってしまう。


 体中から血の気が引くのが分かる。その音が聞こえそうな程に。


「……カオリ? すごく顔色悪いけど大丈夫?」


「おい、大丈夫か?! 真っ青じゃねーか!!」


 そんな僕に気づいた二人が、気遣ってくれる。どちらの気遣いも嬉しいし、なんならそれ以上の感情も湧くのだが…だからこそ余計に僕の感情はぐちゃぐちゃになった。


「ごめん、ちょっと1人になりたい。」


 そう言い残して、僕は独り家路に着いた。

 キョトンとする2人を置き去りに。


 ◇◇◇◇


 ――僕は、どうしたいんだ?!


 家に帰って改めて考えてみる。あの時確かに僕はときめいた。


 遥に――そして、聡にも。


 遥に惹かれているうちは大丈夫なんだろう。けれど。もし、これ以上聡に惹かれてしまったら。


 僕は男として、正気を保っていられるだろうか。不安と恐怖が胸を締め付ける。


 いくら考えても答えは出ない。いくら考えても理屈と感情の狭間で揺れ動く自分から逃れられない。


 どうしよう?!どうしたい?!そう己に問いかけるたびに不安と焦りが加速してゆく。このままではいたずらに動揺するだけだとわかっていても、自問するのをやめられず。


 そんなことを繰り返すうちに気がつくと微睡みの中に堕ちていくのだった。

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