第2話 プロローグ 王女の侍女は失恋しました

「嘘!」

私はそれを見て思わず固まってしまった。


私の視線の先には私が仕えていて心の底から敬愛する王女リーナ・インダルと

私の幼馴染で王女の護衛騎士のルドラ・モンディが抱き合っていたのだ。



その瞬間私の胸に鋭い痛みが走った。


王女の護衛騎士のルドラと私は単なる幼馴染のはずだった。でも、この胸の痛みは・・・・。



私は幼馴染の騎士が好きだと今頃気づいたのだ。


そして、気づいたのと同時に、失恋したのだ。


まさか、リーナ様と彼女を守るルドラが好き合っていたなんて。


そして、私がその幼馴染の騎士のルドラのことがこんなに好きだったなんて、今まで気づいていなかった。


元々私の父は亡くなった前王妃の護衛騎士だったし、母もその王妃様の侍女だった。二人は護衛と騎士で恋愛結婚だったのだ。それもあっていずれは私もルドラと結婚するかもと勝手に思っていたのかもしれない。


二人が恋仲なんて思ってもいなかった。



でも、気づくのが遅すぎた。


もっとも、前もって判っていたところで、リーナ様は王国一美しかったし、インダル王国の至宝とまで言われていた。それに彼女はこの国の第一王女だった。


一方の私はリーナ様ほど美しくもなかったし、平民の侍女だ。


ルドラにしてみても、たかだか護衛騎士だったが、騎士は今後の働き次第で昇爵する可能性もあった。


それに私の愛読書「護衛騎士と姫の愛」、幾多の恋物語の中でも、私ソニアが一番好きな話だったが、今の状況はそれとそっくり同じ展開なのだ。


二人はその話の中の一節のように、今まさに人目を避けて抱き合っていたのだ。


私には二人を邪魔する事は出来なかった。



私は王女の部屋からフラフラと外に出た。




私は料理長にリーナ様の夕食の希望を伝えに席を外していたのだ。たまたま所要で近くにいた料理長にすぐに伝えられたのだ。


そして、予定よりも早く部屋に帰ってこれたのだ。


彼らにとってそれは想定外だったのだろう。


王女もルドラも、まさか私に見られていると思ってもいなくて熱く抱擁していたのだ。





私のいるこのインダル王国、大陸の中央にあって一時期は一大勢力を築いたこともあった古くからの王国だ。しかし、今はかつての面影はない。オアシス一つに押し込められた小国だ。


東の大国マエッセン王国と南には古くからの大国クロチアに接しているその他大勢の小国の一つとなっていた。


私は母が今は亡きアユーシ前王妃に使えていた関係で、その娘であるリーナ王女に仕えていた。前王妃は10年前に馬車の事故で護衛の私の父と侍女であった母とともに亡くなった。

リーナ様とはその時からずうーっと一緒だ。王妃と一緒になくなった父と母を哀れんだ国王陛下が王女の侍女兼遊び友達みたいな形で私を住み込みでお城においてくれたのだ。

リーナ様とはその時からほとんど一緒で過ごしていたにもかかわらず、二人の間のことが判らなかったのもショックだった。


そして、王妃が亡くなって3ヶ月後に隣国の大国マエッセン王国から側妃の娘の王女カイラが王妃として乗り込んできたのだ。新王妃は大国から来たのを傘に着たいけ好かない王妃だったが、1年後には第一王子カビーアを出産。王子を産んだことで王妃の地位を盤石のものにしていた。


女性でも女王として後は継げたが、いかんせんリーナ様は後ろ楯が希薄だった。前王妃はこの国の伯爵家の出身だったが、伯爵家も代替わりして今の伯爵は力もなかった。

現王妃カイラは母国の力をバックに着々と力をつけて、カビーアの後継者としての地位を確実なものにしようとしていた。

マエッセン王国に乗っ取られるのに危機感をもった一部の有意のものは王女を支持したが、いかんせん力が弱すぎた。

また、聡明で美しい王女は平民達の支持は高かったが、後ろ盾にマエッセン王国を有するカビーア王子の前には不利は否めなかった。

有利な点と言えばカビーア王子がまだ10歳にもなっておらず、幼いということだけだった。しかし、後10年も経てば、王子も成人し、確実に有利になるはずであった。

下手したら王妃の陰謀によって王女はそれまでに他国に嫁に出されるかもしれなかった。


私達王女の側近はなんとか王女に王位についてもらいたかった。


しかし、マエッセン王国はこのインダル王国の国土で10倍以上人口で3倍もあって対抗するのはなかなか難しかった。国王陛下がリーナ王女を押してくれたらなんとかなるかもしれないが、どちらかと言うと力関係は若い王妃の尻に敷かれている感が強かった。


もはや、王女を国王の座につかせるには他国の応援を得るしか無かった。


しかし、周りの諸国はマエッセンに比べて小国、南のクロチアはプライドが高くて中々助けてくれそうになかった。他国から王女の配偶者を迎えて後ろ盾になってくれるところを探すかと言う話にもなっていたが、この二人がそう言う関係ならばそれも難しいのではないだろうか。というか、姉のような王女の幸せを他国から配偶者を迎えることによって潰したくなかった。


幸いなことに南方のボフミエ魔導国の国政が一新されて超大国の王子達が治める国になったという情報がもたらされた。そして、その唯一の高等学園である王宮に併設された魔導学園が学生を募集しているという。


なんとしてもその学園に行ってつてを掴んで来てほしいと私は王女やルドラから頼まれていたのだった。


でも私としてはこの危険なインダル王国から、王女を残して行けるわけはないと今までは思っていた。


だが、二人の抱き合う様子を見て、このまま一緒にいて、二人がイチャイチャするのを間近で耐えられる自信がなかった。このままでは二人を嫌ってしまうかもしれない。


私は留学を受けることにした。


その日は涙にまみれて私は泣きながら眠ってしまった。


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本日あと1話更新します

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