三、冒険者ギルド

 翌日、朝の日差しで目を覚ました。昨日、ケイル達にパーティーを追い出された。今はそれが嘘のように清々しい気持ちである。


「う、う~」


 俺はベットから体を起こして背伸びをする。正直寝心地がよかったとは言えないが、凄くよく眠れた。たぶん、色々と抱えていたことがなくなったからだと思う。


「さて今日から、冒険者としての新たなスタートだ」


 昨夜、これからどうするか考えた結果、ソロの冒険者として活動しようと決めた。正直故郷に戻って静かに暮らすのも良いかと考えたが、それではあの女神様に文句を言われそうな気がした。それにせっかくこの魔眼の力をフルに使える機会を得たんだから、やれる所までやってみるのもいいんじゃないかと思いこの結論に至った。


 宿で朝食を食べた俺は、早速冒険者ギルドへと向かう。一人で行くのは初めてだが特に問題はないだろう。ただ一つ問題があるとしたら、ケイル達と鉢合わせすることくらいだろう。昨日あんなことがあって、すぐ会うのは少し気まずい。


 そんなことを心配している内に冒険者ギルドへと到着してしまった。冒険者ギルドとは、冒険者が仕事を受けたり、食事をしたりする場所である。それ以外にも冒険者の様々なサポートをしてくれたりもするのだ。


 今日は時間的にピーク時を少し過ぎているため人の出入りが少ない。これがもし朝一のピークの時だと、中に入るの一苦労だ。昨夜はゆっくりと寝れたため少し寝坊してしまった。


「まあ適当な依頼なら残っているよな」


 などと言いながら冒険者ギルドのトビラを開く。


 ギルドの中には、数名の冒険者が依頼の受付をしているくらいで殆ど人がいない。俺は、依頼書が張ってある依頼ボードへと足を運ぶ。基本的に冒険者の依頼には、討伐依頼と採取依頼がある。基本的に人気のあるのは報酬も高額になる討伐依頼。採取依頼に関しては最後まで残っていることが多い。


 朝一の時点で目ぼしい依頼は既に取られており、残っているのは高難度の依頼か、報酬の安い討伐依頼くらいだ。それと薬草採取の依頼。俺はそれらの依頼を見て、報酬は安いが今の自分の力を見れる討伐依頼を受けることにした。


 採取依頼でも良かったが、鑑定の魔眼を使えば余裕で見つける事が出来るため自分の中で却下した。討伐依頼自体も、Eランクと低くそれほど難しい物でもないが、ソロでの戦闘が出来る。そこで自分がどの程度動けるのか見るいい機会だと思っていた。


 俺は、ボードに張ってある依頼書を取り、受付へと持っていく。


「マイルさんじゃないですか! ケイルさん達は朝一番でお仕事に行かれましたよ!?」


 この人はミラー=レキノス。赤い目と長い赤い髪を後ろで結んでいるのが特徴的で、いつも赤い流星の担当をしてくれている受付嬢である。ギルド内でもかなり力を持っており、今日のようにフリーでいる事など滅多にないのだ。


「そうなんですね。でも俺にはもう関係ないことですので」


「どうしてですか?」


「昨日パーティーから追い出されてしまって、今日からはソロの冒険者として新たなスタートと言うわけです」


「そうだったんですか。最初の内は大変かもしれませんが、頑張ってください。私に何かできることがあれば全力でサポートさせていただきますので」


「ありがとうございます。では早速ですがこの依頼の承認をお願いいたします」


 俺達冒険者が依頼を受ける際には、依頼ボードから取った依頼書とギルドカードを提示して承認を貰うルールとなっている。もしパーティーとして依頼を受ける場合、リーダーのみがギルドカードを提示することで承認を貰うことが出来る。これは、依頼のランクに対して冒険者ランクが適正な物かを確認するために行っている。


 冒険者と依頼のランクは全部で七ランクあり、一番下がFで一番上がSランクとされている。冒険者は自分のランクより低い依頼か、自分のランクより一つ上の依頼を受ける事が許されている。今の俺のランクはAランク。今回の依頼のランクを考えれば問題なく承認が下りるだろう。


「はい、確認いたしました。問題はございませんね」


 承認印が押された依頼書が戻ってくる。


「ソロの冒険者としての初依頼、頑張ってくださいね」


「はい、ありがとうございます」


 俺は、ミラーさんに挨拶をして冒険者ギルドを出て、今回の依頼の討伐対象のいる森へと向かった。


 今回の依頼は、街の西にある森にでるゴブリンを五体討伐すると言う物。ゴブリン自体はモンスターの中でも最低ランクのEランクに格付けされている。知能はなく、手に持っている棍棒で攻撃をしてくるくらいで、それほど脅威はないのだが、唯一の問題としてゴブリン退治の依頼は報酬が安い。それが故に受ける者が殆どいないのが欠点である。


「久しぶりのゴブリン退治、問題はないと思うが気を引き締めいこう」


 まともな戦闘をするのは三年ぶりになる。ケイル達とパーティーを組む前、村にいたときは訓練がてら近くの森でモンスターを討伐していた。だが、ケイル達とパーティーを組んでから戦闘は全くしていない。そのためどこまで感覚が鈍ってしまっているか分からない。


「とりあえず感覚を早く取り戻さないとな」

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