第2話 科学都市『MACHIDA』

 機蟲。

 彼らの起源は不明だ。どこかの国が開発した生物兵器とも空から来訪した外来生物とも言われている。

 分かっていることといえば、二百年前に昆虫と分類されていた六本脚の頭部・胸部・腹部の三つに分かれた小さな生物が突如、機械を思わせるメタリックなボディに形態を変化させ、人間を襲う凶悪な存在となったこと。そして今や彼らが地上の覇者として大地を跋扈し、戦いに敗れた人類は地下へ逃げ込み細々と暮らしていることだけだ。

 何の装備もない状態で一歩地上へ出たが最後、餌となる運命だ。機蟲の鋼鉄のボディを貫く手段は限られており、定期的に殺虫剤を散布し、居住区へよせつけないようにするのが現在のところ一番の有効策だ。

 かつて日の本をまとめていた政府は度重なる戦闘に疲弊し求心力を失った結果、瓦解した。他方、地方の実力者たちが力をつけ土地一帯を支配し、争う事態が常態化している。群雄割拠。歴史に詳しい人間に言わせれば、過去にあった戦国時代に似ているそうだ。

 現在、日の本を支配する藩はおおよそ三十に別れている。

 科学地下都市『MACHIDA』もそのうちの一つだ。

 首都東京が機蟲たちに蹂躙され滅んだのをきっかけに独立を果たし、一大都市を築いた。日の本一の科学力を持つと称し、機蟲被害により住まいを失った移民の受け入れを積極的に行なっている。

 けれどそれは表の顔。

 平和と安寧を求めて煌びやかな都市を訪れた移民たちに待ち受けるのは、階級制度と歴然とした格差だ。

 下に潜るほど地位も選民意識も高くなる地下五階層からなる町田。彼らの生活を支えるために、押し付けられる仕事の数々。しかも、一度地下都市の中に入れば出れない蟻地獄となっていた。

 移民たちの集う地下一階層。その中でも嫌悪される仕事。

 それが地上での殺虫剤散布であった。

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