第10話 青い鳥と、旅立ち

 玄関の前には一人の男性が立っていた。白いズボンに青いシャツ、濃紺のジャケットを羽織り、背は175センチぐらいだろうか。歳は私より少し上だと言っていた。声は聞いたことがあるものの、写真でしか彼のコトは知らない。それでも私にとっては母よりも、リアルの誰よりも今は信頼している。この脱出劇の計画者だ。


「来てくれたんやね? ありがと」

「約束したからな」

「ふふふ。約束は下まで迎えに来てくれるって話じゃなかったっけ」

「いや、ほら……心配で」

「ホントに、ありがと」


 にこやかに微笑めば、彼は同じように笑顔を返してくれた。

 わざわざ非リアルにすぎなかった私のために、遠い地から駆けつけてくれたのだ。


「そんなことより、荷物もってやるから他のメンバーに合図してあげな。おまえが顔出すのを、みんなヤキモキしながら待ってるぞ」

「そうなん? それは、うれしい」


 スマホから青い鳥をタップし、すぐにDMグループにアクセスする。そこには仕事中や授業中のはずの、ほぼ全員が集まっていた。


『みんな待っててくれたん?』

『家、出れたの?』

『大丈夫だったか?』

『合流出来た?』


 アイコンからは、次々に心配する質問が私に投げかけられる。元々、創作仲間として集まった非リアルのコたちだ。しかしリアルの友だちよりも長い時間、会話や相談をし、いつからか私にとってはリアルよりも近い存在となっていた。


 そう。今まで優しい言葉も、こんな温かな心配もされたコトなど一度もなかったから……。


『大丈夫やよ。みんなのお陰で全てがうまくいったよ。ありがとう』

「泣くなよ」

「んっ。でも、うれしくて……」

「そっか」


 彼の手が私の頭をくしゃくしゃと撫でた。


「まだこれからだぞ。ここが始まりなんだからな」

「うん。分かってる。でも、ホントに長かったから……」


 そう長かった。でも今やっと、私はこの地獄を抜け出すことが出来た。リアルまで付き合ってくれた彼と、非リアルでもずっと見守ってくれた仲間たち。大切なモノは、私が本当に欲しかったモノは今ここにある。


「私、今ホントに幸せやわ」

「そうか?」

「うん。ホントにありがとう。気づいてくれて。そして、ずっと側にいてくれて」


 私は彼の腕に手を回し、ただほほ笑んだ。今からすべてを取り戻していこう。きっとまだ、間に合うはずだ。そう、この優しい仲間と愛おしい彼と共に。

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毒親からの脱出!! 私、奴隷卒業します。 美杉。節約令嬢、書籍化進行中 @yy_misugi

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