第8話 泣くというコト

『どうしてそこまでしなきゃいけないんだ? もっと自由に、好きなコトをやってもいいはずだろ。なんでそこまで、親の言いなりにならなきゃいけないだよ?』

『……うん。なんでだろう』

『異世界じゃないなら、そこは地獄なんか?』

『あはははは。……そんなに酷い?』

『酷いだろ』

『そっか……。うん……そうやね……』


 異世界か地獄か……。


 そこにいると、それが当たり前すぎて分からなかった。私にはいたって普通のことと諦めていたことでも、他人が聞けば異常だということか。


『ああ、悪い……。言いすぎたか?』

『ううん。大丈夫。そうじゃないかなって……この生活はおかしいんじゃないかなって……。ずっとどこかで思ってた。だって、苦しいんだもん。そしてリアルなんかより、ココのが……ココの人たちのが優しい……』

『……今まで、よく耐えてきたな。おまえはホントに偉いよ。でも、そこまで我慢しなくてもいいんだぞ。もっと自由に、自分の人生を生きてもいいはずだ』

『自由に……、自分の人生を……』


 自分の人生ってなんだろう。今まですべて、母の言う通りにしてきた。服も、持ち物も、行動も全て。


『おまえは、母親の引き立て役でも、奴隷でも、ましてやペットでもないんだぞ? 好きな服着て、好きなもの食べて、好きな場所にいって、好きなことをする権利があるだろ』

『……うん。ホントやね』

『泣いてるのか?』

『泣かない……。泣くの嫌いなんよ……。泣くのはね、自分のためなんだって。自分が可愛くて、自分が可哀そうで、自己中な人がするコトなんやって……。だからね、泣くと……』

『そんな馬鹿なことあるワケないだろ。誰がそんなコト言ったんだ? 泣くなんて当たり前のことだろ。ホントに……言葉悪いけどいいか?』

『んー? うん』

『おまえの親、どんだけ腐ってるんだよ。娘を何だと思ってるんだ』

『……。泣いてもいいの? 大丈夫? 泣くと苦しくなるの……。自己中で自分勝手で、すごいダメな子な気がして……』

『当たり前だろ。悲しい時も、苦しい時も泣けばいいんだよ』


 そう言う間にも、もう堪えていた涙が溢れてきていた。今までずっと溜め込んでいた分、まるで許されたことがきっかけのように、どんどん流れてくる。それでも声を出さないように必死に枕に顔を埋め、返信すら出来ずに、ただただ泣いた。


 こんなに泣いたのは、もう子どもの頃以来かもしれないというぐらい、泣いた。泣くことを許される。ただそれだけのことで、こんなにも自分の中で押し殺していたモノがあったなんて思いもしなかった。


 どれだけ泣いたのだろうか。それでも泣き止むまで、私が返信を入れるまでみんなはただ待ってくれていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る