第17話 神にもいろんな種類がいるのだと知った②


 駅を出てふと掲示板に目が止まる。


 さまざまなポスターが貼られている中、迷い猫の張り紙を見つけた。【二歳・男の子・胴体黒色で足先が白・赤い首輪(ハート柄)】写真付きでそれが掲載されていた。


 日付を見るにいなくなってから一週間ぐらいだった。なんとなしにそれを見てから桂華は通り過ぎる。


 いつものように夜の道を歩いていると猫が飛び出してきた。危ないじゃないかと猫を見て桂華は首を傾げる、黒猫に見えるが足先が白だった。


 そこで首元をみると赤い首輪をしているではないか。気になった桂華はしゃがみこんで、ちちっと舌を鳴らして猫を呼んでみた。すると猫はすたすたとやってきて戯れついてくる。


 確認してみると、首輪にはハートの柄がついていた。首輪にはネームタグが付いていて名前が書かれている、飼い主の苗字と猫の名だ。それはポスターに書かれていたものと一緒だった。



「……どう見ても、迷い猫だよなぁ」



 そう、どうみても駅で見た迷い猫のポスターに載っていた猫だ。どうしよう、見つけてしまった。そもそもそんな偶然あるものだろうか。仕組まれてないか、これと桂華は猫を触りながら考える。


 見つけたはいいものの、見なかったことにするのもいいかもしれない。自分じゃなくても他の誰かが飼い主に伝えるだろうと思わなくもなかった。暫く猫を見つめて桂華は息をつくとその子を抱き上げた。



「とりあえず、保護で」



 けれど、放っておけるわけもなくて桂華はその子を連れ帰った。


          * 

 

 猫を見たニャルラトホテプは渋面になっていたものの、駅に張り紙があるから電話してこいと訳を話せば仕方なく行ってくれた。


 猫を彼と二人っきりはさせたくはなかった。何もしないとは思うけれど、猫にストレスを与えてはいけないのだ。


 少ししてからニャルラトホテプが帰ってきた。飼い主に連絡を入れたところ、すぐに確認しに行くとのことだった。家が近いことから三十分もすれば到着するはずだと。



「違っていたらどうするのだ」

「その時は張り紙します」



 桂華の言葉にニャルラトホテプは面倒そうに眉を寄せていた。猫が嫌いというわけではなくバーストの信者が近くにいるのが嫌なのだ、彼は。


 あと少しの辛抱だから我慢してくださいと宥めつつ、三十分。ニャルラトホテプが所持しているスマートフォンが鳴った。どうやらマンションに到着したらしく、迎えに行ってくると彼は家を出ていく。それから数分して飼い主が自宅を訪れた。


 少し老けた女性で猫を見せてみると涙を流した。飼い主は泣きながら「たま」と呼ぶ。すると猫は名前に反応してとことこと飼い主の元へと歩いていき、じゃれついた。首輪についたネームタグを確認して飼い主は頷く。



「うちの子で間違いないです……ありがとうございます……」



 何度も何度もお礼を言われて桂華は「たまたま見かけただけなので」と返すも、「あなたのおかげです」と飼い主の女性は頭を下げた。



「見て見ぬふりもできたでしょうに、ちゃんと保護して知らせてくれたのですから。本当にありがとうございます」



 女性は涙で瞳を潤ませながら「後日、必ずお礼しますので」と言って猫を連れて帰っていった。それを見送ってから桂華はリビングまで戻って呟く。



「にしても、猫と縁があるなぁ」

「嫌な縁だ」

「私はあんたとの縁を切りたいんだけど」

「それは聞けないな」



 聞いて欲しいのだがと桂華はじとりと見遣流も、ニャルラトホテプはただ笑うだけだ。桂華は面倒になったので突っ込むのをやめた。


 後日、本当にお礼をしにやってきて、実家から届いたものでと米を頂いてしまった。


 

          ***


 

 桂華はいつものように帰路を歩いてた。すっかりと夜になってしまい、月の光と街灯の明かりを頼りに道路を歩く。


 ふと見遣ると猫が塀の上に乗っていた。黒猫で首輪はしていないので野良猫なのか、ただ首輪をしてないだけの飼い猫なのかは判断できない。よく猫に会うなと思いながら通り過ぎようとした時だった、車が入ってきた。


 ここは一方通行なので入ってきた車は逆走していることになる。違反者かと桂華は眉を寄せた。この道ではよくあることだったので、またかと思いながら桂華は歩道を歩いていた。


 スピードを上げてくる車の前に黒猫が飛び出した。ライトの光に驚いたのか、それとも車の勢いからなのか黒猫は立ち止まっている。車は車で猫に気付いてないらしくスピードはそのままだ。これはいけないと桂華は歩道から出た。走って猫を抱き抱えて道路を横切る。


 車にクラクションを鳴らされて「あぶねーだろうが!」と罵声を浴びたけれど、「一方通行を無視しているあんたに言われたくない!」と桂華が怒鳴れば、運転手は黙って車を走らせて行ってしまった。


 今、警察を呼ばれては間違いなく、運転手は違反で事情を聞かれるのでそれを避けたかったのだろう。


 はーっと息を吐いて桂華は黒猫を降ろした。黒猫はじっと桂華を見つめている。



「危ないから飛び出したら駄目だよ?」



 そう伝わるかどうか分からないけれど桂華は頭を優しく撫でた。黒猫は暫く撫でられていたけれど、すらりと何処かへと行ってしまった。


 猫は気まぐれと聞くけれど本当だなと思いながら桂華も帰路へ着いた。帰宅するとニャルラトホテプに「キミ、危ないことしたでしょ」と言われてしまったけれど、「いいじゃん、別に」とだけ返した。


 彼は眉を下げて見つめてきたけれど、覗き魔に説明なんてする必要がない。桂華はそんな彼を無視して寝室の方へと向かった。

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