第39話 狂信的な信者

「待ち伏せがあっただと?」


待ち伏せに会い、ザクに言われ逃げ出したハギルは5日後ファルトの街でサルヴァに報告していた。


「へい旦那。ザクの奴が足手纏いってんで逃して貰ったんで」

「そうか、ザクはどうした?」

「その場で闘い始めまして…どうなったかはわかりません」

「もう、あの経路は使えないか…。ザクはタダで死ぬようなタマじゃあるまい。どうにかするだろう」


サルヴァは内心、かなり高確率でザクは殺されたか捕えられたかしたと思ったが、ハギルに対して気を遣ったと言える。


もし、生き抜いていたとしたら。

彼の地で力を付け戻ってくるだろう、その時は教会潰しに協力しよう。サルヴァはそう考えていた。




同時間軸、王都では12柱が再度城に集まっていた。


「そうですか、そちらに現れましたか。それで?」

「崖から川へ飛び込みおった。あの高さではまず助かるまい」

「ふむ、しかし死体を見たわけではないのでしょう? その川はどちらへ流れてありましたか?」

「ダミアン、お主…まだ追っ手を差し向けるつもりか?」


当然でしょう?

ダミアンは何を当たり前な事を、という風に告げる。


「しかしのぅ、ザクルードが言っていたぞ?お主、奴の村を滅ぼしたそうではないか?」

「何だと?ダミアン、貴様罪のない人々を殺したのか?」

「それは、良くないんじゃあないかい?」


ふぅ、と1つ溜息を漏らすダミアン。

そして、再度当たり前な事を言うなとばかりに言う。


「何を言ってるのですか? 彼は、ザクルードはこの国、ひいては世界を恐怖に陥れる存在なのですよ?

そんな人間が育った村など、もしかしたらザクルードの思想に染まっているかもしれないのですよ?危険過ぎます」

「お主…正気か? 実際会ったがそこまでの人間には見えんかったぞ?」

「貴方こそ正気ですかオウガイ老! 危険に見えないですって!? 神の御意志が信じられないのですかっ!!」


興奮したように話すダミアンに、一同沈黙する。


オウガイは思う。ダミアンは以前、ここまで神とやらに傾倒していたか?と。


200年前に現れた人間と同じように祝福が弾けた。その後その人物は人を恨み魔王となった。


それは良い、真実かどうかは知らないが伝承としてそう伝えられている。


だが、今回のザクルードは教会を恨んではいるが人全体を恨んでいるわけではない。

教会が恨まれるのも、村を滅ぼされたのなら当然とも言える。

このまま国をあげて追っ手を出すなど、もしザクルードが伝承通りの力をもった場合、それこそ国が危険になるのではないか?


(ヒバナ、ミストラ。後でワシのところに来い)

(む…オウガイ老? …わかった)

(承知したよオウガイ)


「ダミアン、お主の言っておる事はワシには難し過ぎてわからぬ。ザクルードに追っ手を出すと言うなら勝手にせい。ワシはもう協力は出来ぬ、道場の方も忙しいからのぅ」

「私もだダミアン。お前の言っている事は同意出来ん。私はそれほど信心深くないのでな」

「僕も右に同じく」


「貴方達…!

良いのですか!世界の危機だと神は言っているのですよ!?

力がまだ未熟な今こそ打ち取らなければならないのですっ!何故それがわからないのですかっ!!」

「何と言われてものぅ、そう言う事でワシらは当てにしないことじゃな」

「……何と言う事か! 神は貴方達の行いを見ていますよ、必ず天罰が降ります!!」


ダミアンは吐き捨てるように言う。

その時、オウガイの身体が一回りも二回りも大きく見えるほど圧が高まる。


「ほぅ。天罰が降るとな。その天罰とやらはお主が降すというのかのぅ?」


圧倒的な圧力にヒバナもミストラも額に汗が滲む。

ダミアンはこれ以上は無駄だと悟り、話題を変える。


「…わかりました、貴方達についてはもう期待はしません。オズマ、貴方もですか?」


ここまで黙っていたオズマが唸るように言う。


「…あのガキを殺すためなら協力してやる。が、俺の邪魔はするな」

「良いでしょう」


ザクルードを追うのは聖神教と【破壊】のオズマ。

オウガイ達12柱の3人は手を引いた。

ザクルードに取っては良い方向に進んだ形となった。


しかし、ダミアンの狂信とオズマの狂気。

まだザクルードの前途は多難であった。

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