第35話 仲間との別れ

遂に国外脱出の日が来た。

朝、まだ薄暗く皆寝静まっている時間。


「世話になったマザー」

「大分、顔が良くなりましたねザク。此処に来た時に比べかなり元気になったようで良かった」


そうだな、あの時は自暴自棄になっていたと今ならわかる。


「カーミラに伝えて欲しい。お前のお陰で少し気が楽になったと」


昨日この国を出る話をして泣かせてしまったお節介女はこの5日、何かと引っ付いて世話を焼いてきた。

煩わしかったが、多分返ってそれが良かったんだろう。


「えぇ、伝えておきます。カーミラは貴方の事を慕っているようですから」

「こんな犯罪者はやめておけとでも言っておいてくれ」

「そろそろ、行くぞ」


サルヴァが出発の合図を出す、ローブを深く被り孤児院を出てまた暗い街中を進む。


裏路地を進み、廃墟のような家へ着く。

そこに待っていたのはハギルだった。


「へへ、久しぶりだなザク」

「…もしかして、お前がスパルタスまで御者を?」

「大当たり! へへ、よろしく頼むぜぇ?」

「門兵には金を握らせてある、ハギル頼んだぞ」

「任せてくだせぇ旦那」


一気に不安になってきたな…大丈夫なのだろうか。

まぁ仕方あるまい。既に賽は投げられた。


「サルヴァ、世話になった。必ず聖神教は潰すと約束しよう。時間はかかると思うが」

「ああ、その時は声をかけろ」


お互い生きていたらな。

さぁ、出発だ。


心残りはエイト達に挨拶できなかった事だな。

サルヴァは何とかするとは言っていたが、その話が出ないと言う事は秘密裏には難しかったのだろう。


「…いつか、必ずまた帰ってくる」


力を付け、必ず。



---


馬車に揺られ街を出る。

側から見たら行商の馬車に見えるだろう。その馬車の幌の中、荷物に紛れファルトの街を出た。

ここまではスムーズに進んでいる。

逆にそれが不安にさせる、こんなにすんなり行くものなのか?大量殺人犯を簡単に街から出すものなのだろうか…。


しばらく街道を進むとハギルが何かに気付いたようだ。


「ザクゥ、何人か前にいるぜ…」

「あぁ、気配からして出来る奴らだな…闘いになったらハギルお前は逃げろ。俺に付き合う必要はない」

「へへ、そうなったらそうさせて貰うぜぇ」


待ち構えていた奴らは既に隠れる事もせず街道に立っている。数は5人。


「お、ザクよぉ。大丈夫っぽいぜ?」

「なに?」


幌から覗くと、街道に待ち伏せていたのは天昇の道のメンバーだった。

俺は荷台から飛び降りる。


「ザク!元気みてぇだな!」

「あぁ、エイト。わざわざ見送りに来てくれたのか」

「まぁそれもあるがよ。ロジックから大事な事を伝えるために来たんだわ」

「ザクさん…申し訳ありません」


ああ、ロジックは元聖神教だったか。今も教えに従ってるところもあるしな。


「ロジック、あんたも俺を異端者として処分するつもりか?」

「いえ…私はザクさんを異端者扱いする教会に疑問抱いております。ザクさん、あなたは異能の祝福を受けた際に魔法陣が弾けて消えましたね?」

「あぁ、それが?」


ロジック曰く、それは聖神教の伝承によると古い魔王と同じらしい。

それで、異端者か。


「馬鹿馬鹿しい」

「えぇ、しかもその以前にも同じ現象が起きた方は英雄になったのです。ダミアン司教は魔王として力を付ける前に処分する考えです。

…ワグナス様は恐らくもう処分されています。ワグナス様の執務室で記録か何かを見つけたのでしょう。ザクさんが英雄になった時の記録として付けていたものを」


記録など付けていなければ、いやもっと前、異能の祝福など受けなければ。


しかし、たらればを言っても溢れた水は戻らない。


「…そうか。思う所がないわけでは無いが、どうしようもない事だった。誰も予想出来ない。ロジックも余り気に病むな」

「そう言って頂けると助かります」


そして、ロジックは本題として告げる。


「ダミアン司教の情報をお伝えします」

「!? 言ってくれ!」

「ダミアン司教は法術と異能の両方を使えるために異端糾問局のトップに立った男です。私は直接見た訳ではありませんが、【断罪のだんざいのいかづち】と呼ばれています」


(いかづち…雷か…)


「後こちらをお伝えしたかった事です、ここ数日教会が慌ただしくしておりました。恐らくは国境付近での待ち伏せが予想されます。そして他の12柱も動いているようです」

「そうか…まぁ待ち伏せは予想はしていた。しかし、12柱もとはな…情報感謝する」


やはり、すんなりと国外脱出はさせてくれないか。

待ち伏せされていようと、どの道進まなければならない。

決意を改め、見送りに来た仲間と別れる。


「じゃあな、ザク。元気でな」

「ザクー、しっかりやれよー」

「……お前なら大丈夫だ」

「頑張れ」

「お身体に気を付けて」


「あぁ、世話になった。本当に…」




また、帰ってくる。

そう告げて馬車は進む。


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