第34話 これから向かう先

俺が孤児院に来て二日目の昼過ぎ。

予定通りにサルヴァが訪ねてきた。

俺を呼ぶ声が聞こえる。


「今日はここまでだな。後は自分で続けることだ」

「はぁ…はぁ…あ、ありがとうございました」


カミーユに軽い手解きをしていた俺は、一言告げてカミーユをその場に残し、サルヴァのもとに向かう。

何故かカーミラがついてきたが。


「何故、ついて来る?弟は良いのか?」

「え?良いのよ。アタシはザクが何かしないようにお目付役なのよ?」

「…そうか」


兵士から助けた事で懐かれたか。

まぁ、今だけだろう。


「来たかザク…随分仲が良さそうだな」

「そんな、夫婦みたいだなんて」

「黙れ。さぁこれからの事を打ち合わせするぞ」


お花畑なカーミラは放置しておいて、サルヴァと共に小部屋に入る。

面倒な前置きは省き、サルヴァに尋ねる。


「サルヴァ、この国を出るにはどうしたらいい?」

「やはりその結論か。正規なやり方では難しいな。ただ、こちらの領分だ安心しろ」

「その辺りの手配は任せる」


そして、俺は兼ねてからの疑問をサルヴァにぶつける。


「何故協力してくれる?お前に何のメリットがある?」

「まぁ、そう思うのも無理は無い。俺も聖神教が邪魔だからな利害の一致だ。それで今は納得しろ」

「利害の一致ね…。まぁ良いさ」


今はそれを信じるしか無いか。


「さて、聖神教の影響が及ばない国で入国にそこまで手間が掛からないとなるとスパルタスという国がある」

「スパルタス…どのくらいかかる?」

「ここから、馬車で60日くらいか」


約2ヶ月か。

徒歩だと普通に行って半年ほどかかりそうだな。


「その国はお前向きだぞザク」

「どう言う事だ?」

「スパルタスは武力を最も重視する軍事国家でもある。それゆえ宗教の影響はほぼ無く、強い事がそのままステータスとなる国だ」


まずは、そこで力を付けろとサルヴァは言う。

なるほど武力を重んじる国家か。

確かに俺向きではあるな。


「目的地は決まりだ」

「ならば、後5日ほど此処で潜伏しろ。旅の準備はしてやる」

「……世話になるな」

「なに、【至近】のミストラに勝って貰ったんだ。この程度問題無い…それに」

「それに?」

「お前はこんな所で終わる奴じゃない、もっと大きな舞台に立つ奴だ。俺の勘だがな」


随分と俺を買ってるな。

ならば、期待に応えよう。

ああ、そうだもう一つ頼みたい事があった。


「天昇の道のメンバーと連絡は取れるか?」

「……既に聖神教が監視している報告がある。厳しいが出来なくは無い。が、リスクはあるぞ」

「付き合いは短いが、世話になったし良い奴らなんだ。国を出る前に挨拶くらいはしたい」

「ふむ、なんとかしてみよう」


彼らには街に着いたばかりの俺を住まわせてくれたり、色々世話を焼いてくれた恩がある。

このまま何も言わずにいるのは余りに不義理だ。

後、聞きたい事もあるしな。


何にせよ、5日後。俺の旅が始まる。





---


「それで、ザクは無事なのか!?今何処にいるっ!?」

『それは申し上げられません。ただ無事である事は真実です』

「そうか…ならひとまずは安心だ」


天昇の道の拠点ハウス。

メンバー全員と、一羽の小鳥が居た。

サルヴァの部下の異能である。最初は驚いていたエイト達だったが、事の次第を小鳥から説明された。


「……国を出るか」

「ザク行っちゃうのかー、残念だなー。別にアイツ嫌な奴だったし殺しちゃっても良いじゃんねー」

「お前なぁ、そうも行かねぇだろうが…。一応犯罪者になっちまってるんだからよ」

「ザク、何処に行く?」

「おお、そうだよな!こっちから会いに行けば良いんだしよ。アレッタは賢いな」

「エイトが馬鹿」


他国に行ったとしても、冒険者は世界共通だ。会いに行って、なんならそこに拠点を設けても良い。

エイトはそう考えていた。

5年前に出会ってこの街で過ごして、エイトはザクの事を弟のように思っていた。今のザクの現状を聞いて尚更放っておけないと強く思う。

しかし、小鳥から出た言葉はエイトの思惑と違うものだった。


『向かう国はお教え出来ません。何処から情報が漏れるとも限りませんので』

「なんだと!?俺らが裏切ると思ってるってのか!?」

『そうではございませんが、ここには聖神教の司祭がいらっしゃいますので』


指名されたロジックは、目を瞑り何かを考えている。

他の皆はロジックを見ている。重い静寂が広がる。

何かを考えていたロジックだったが、顔をあげ、そして意を決したように口を開く。





「ザクさんにお伝えする事があります。ダミアン司教の事です」

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