第16話 誰だって助けに入る、俺もそうする

次の日朝早く起き、瞑想にて体内の気を循環させていると声がかかる。


「ザクー、朝ご飯できたよー」


昨日ファルトの街に着き冒険者登録を終え、昔知り合った冒険者達の家にお邪魔させて貰っている。

今日は教会へ行き祝福を受ける予定だ。異能が発現すれば嬉しいもんだ。


「今行く」


朝から元気なサシャへ返事をし、部屋を出て階下に降りる。


「おはよう」

「おはよーザク、よく寝れた?」

「おはようございます、今日はよろしくお願い致しますね」

「おは」

「……おはよう」


サシャ、ロジック、アレッタ、ガイアス。

ファルトの街の冒険者でお世話になっているパーティだ。…1人足りないな。


「あれ?エイトは?」

「まだ寝てるー」

「いつもの事ですのでお気になさらず」

「先食べる」

「…」


リーダーのくせに、しっかりしてねーなぁ。5年前もそんな感じはしていたが。ま、メンバーも気にしてないみたいだし、その分ロジックやガイアスに負担が掛かってそうだが…コレはコレで上手く回ってるのかね。



朝食を食べ終え、ロジックに話し掛ける。


「いつ頃案内してくれる?」

「そうですねぇ、この時間は一般のお祈りの方々で混み合ってますので、数刻後がよろしいかと。ザクさんは街に着いたばかりでしょうし、探索でもしては如何ですか?」

「そうだな、そうしようかな」

「迷子になるなよー?」


子供扱いすんなよ。子供だけど。

まだ街の地理が頭に入ってないし、ブラブラしてくるか。


家を出て、当ても無く街を見て回る。

まだ早い時間のためか、昨日見た出店はやっておらず、人もまばらだ。


街の中は人間だけでは無く、多種多様な種族が暮らしている。獣の特徴を持った獣人や、ずんぐりとした体型のドワーフ、身体が大きく頭に角を持つ鬼人等々。比率としては圧倒的に人間が多いが。

天昇のアレッタもエルフだったし、初めて見たから驚いたな。こういうの見ると前世と違い異世界なんだなと感心する。


(まぁ、今となってはココが世界で前世が異世界か)


特に目を引く物もなく、帰って鍛錬でもするかと考えいてた時、裏通りの方から小さく喧騒が聞こえた。


(お?喧嘩かな。暇だし見に行く一択でしょ)


集中して声のする方に向かうと、薄暗い路地の所で数人の人影が見えた。

物陰に隠れて様子を見る。

あれは…騎士?いや、衛兵が3人か。それと小さな女の子と男の子か。

子供の方は随分ボロい格好だな、孤児か?


「良いからさっさと払えや!」

「この街で露店やるのに場所代なんか必要ないはずでしょ! アンタらに払う必要なんかないじゃ無い!」

「うるせぇよ、俺達ゃこの街の兵士だぞ?ルールは俺達が決めるんだよ」

「…お姉ちゃん……」


なるほど、子供に集って小金巻き上げようって感じか。ヤクザよりタチが悪ぃな。こんな半グレみたいなのがこの街の兵士とは、大丈夫か?


「おら、良いから早く出せ!じゃなきゃお前を犯しても良いんだぜ?」

「ギャハハ!お前そんな子供に欲情すんのかよ!」

「へへ、よく見りゃ結構可愛い顔してんじゃん。どうせ金なんてそんな持ってねぇだろうし、弟の前でヤッちまおうぜ」

「な、なによアンタ達…来ないで…」


……気に入らねぇ…自分より劣る者を見下すその態度。気に入らねぇな。

我慢の限界だ。


「よぉ!楽しそうに何やってんだ?」

「あぁん!? 何だよガキかよどっか行けや」

「ククク、イキるなよ半グレが。見てらんねぇよクズ」

「半…何だって?生意気なガキが殺すぞ!?」

「出来ねぇ事口にするなよ、お前らみたいなの見てるとイライラすんだよ」

「なんだコイツ。おい、お前らまずコイツから殺んぞ。逃げるなよ、ガキども」


ああ、こっちもムカツイてるから殺る気だよ。

帯剣しているとは言え兵士3人程度、見たところ大した実力も無い、余裕だな。


抜刀して俺を囲むように位置取る兵士達。

ジリジリと距離を詰めてくるが、焦ったいなコッチから行くぞ!


ふっと、明後日の方向に顔を向ける。

正面にいる奴が気が逸れた。コイツからだな。

素早く近付くと反応出来ていない、そのまま側頭部へ回し蹴り。糸の切れた人形のように崩れ落ちる。


仲間1人がやられたのを見て、ようやく残りの2人が走って詰めてくる。

が、そのうちの1人は少し弱気だな。次はコイツか。


心の中でビビった1人に向けこちらも向かう。

案の定腰が引けている。


「うわぁ!」


情け無い声を出して剣を横に薙ぐ、軸もブレブレでキレが全く無い。こんなの当てても人は死なねぇぞ?

【仙気法 鋼体術】

振り回された剣を胴体で受ける。一瞬ホッとした顔をした兵士だが直ぐに絶望する。


「何だよコイ-」


言い終わる前に、ワンツー。崩れ落ちる前に腕を取り脇固めでへし折る。


「ギャァァ!」

「て、テメェ!!俺達は兵士だぞ!? 牢獄へぶち込んでやる!!」

「お前…ココであった事報告できるのか?」

「な、何を言って-」

「死人がどうやって説明すんだ?」

「ひ……ヒイィ」


もはや、戦意喪失した最後の1人の腹に軽く手を添える。

体内の気を相手の内部に通すようにして、軽く押す。


【仙気法 内揺勁(ないようけい)】


ふらふらと2、3歩後ろに下がった兵士は、鼻血と胃の内容物を吐き出して倒れた。


さて、最初の兵士を起こすか。

しゃがみ込み、ペチペチと数回頬を叩くと気が付いたようだ。


「…っ! テメェ」

「おいおい、周り見ろよ」

「なっ!? おい、お前ら早く立て!」

「立てるわきゃねぇだろ? お前を起こしたのはやる事あるからだよ」

「ひっ…殺したのか? 俺も殺すのか!?勘弁してくれぇ!」

「安心しろ、殺しちゃいねぇよ。ただ次見かけた時に今日みてぇな事してたら…わかるな?」


壊れた玩具のようにぶんぶんと頷く兵士。

そう、殺しちゃいない。エイト達に迷惑かけるからな。まぁコレでも既に迷惑になるかもしれんが、そん時は他の街に行けばいい。


すっかり大人しくなった兵士に2人を運ばせて一段落だな。


「よ、災難だったな。しかし、ココの兵士はあんなのばっかりか?」

「あ…いえアイツらは伯爵の子供の取り巻きでクズよ。他の兵士はしっかりしてるわ」

「そうか、まぁたまたま通り掛かって良かった。じゃあな」

「あ、あの! ありがとう…助かったわ。アンタ、子供なのにすっごく強いのね。名前なんていうのよ?」





「名乗る程の者じゃない」

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