児童監視員

アレキサンドライト

第1話 小学生に忍び寄る変態

 特に何もなく不自由もない平日、小学生はあたりまえのように登校し、下校する。それをただただ繰り返す。そんな穏やかな毎日を「原沼 童子はらぬま どうじ」は願っている。

 

 朝になると、とある町にある、「 小百合小学校」の生徒たちは今日も元気よく登校する。そんな子どもたちをこそこそと隠れながら見つめているのが「原沼 童子」である。


 「今日も児童たちは元気いいなぁ、へへっ、」


 童子はそう気味の悪い口調で言いながら小学生の行動を記録する。もちろん、これは朝だけでは無い。下校する時や、放課後、なんなら小学校まで行き、休み時間さえも見に行くほどである。いわゆる変態だ。

 小学生を見送ると家に帰り、結果を報告し合う。その相手はというと、この「児童監視員」の開発者である、「百合崎 勇人ゆりざき はやと」である。この二人はいまや二十歳を迎え、小・中・高を共にした、高卒ニートである。


 「おい、今日はどうだった?」


「以前変わりなくみんな登校してたぜ」


 電話越しに訊いてきた勇人に対し、童子はなぜか自慢げに答える。そして、勇人は次にきまってこう言う。


「そうか、こっちも全員元気そうだ」


 この小百合小学校は大きく分けて二通りの通学路がある。それを二人は分かれて記録しているのだ。


「じゃあ次は昼で合流な」


勇人はそう言い、


「お、おぉウ」


 童子は口からなにか得体の知れないようなものが出てきそうな声で返事をした笑。電話をきると童子は親が用意してくれた温かいが実際には少し冷めている朝ごはんをたべた。


 昼休みは過ぎ、ちらほら見える雲が象徴する青空にはギンギンにキマった太陽が浮かんでいた。ついに小学生たちが下校する時間が来たのだ。童子はいつも通り公園へ行き、いつも通り木の裏に隠れてスタンバイした。すると、続々と小学生が帰ってきた。


 おっ、トップバッターは3人組の男の子たちだ、彼らの成長を見守らねば。


すると一人の男の子が下ネタを叫んだ。


 .........ッッ!?

 あの子の名前は鈴木孝夫くん!4年生にしてそのことばをおぼえるとは!小学生の成長は著しいな!これからも成長が楽しみだ!


 そして、時間は過ぎていき、今日もいつも通りの微笑ましい時間が流れていくのだなあと思っていた童子に、いつも通りではないことが起きたのだ。言い換えれば、非日常的な日常とでも言うのだろう。

 いつもの通学路に赤いランドセルを背よった一人の女の子が歩いていたのだ。


 ん?あの子は3年生の坂田真莉さかた まりちゃん、いつもは小林由依こばやし ゆいちゃんと下校しているのになぁ。

......ん?今こっちを見たような...


 すると幼女は童子に誘われたかのように公園へ入り、例の木の前まで歩いてきた。


「おにいさん、そこでなにしてるの?」


幼女が言うと、少しテンパりつつも童子はそれなりの回答を用意したつもりだったが、今となっては全然そんなことはなく黒歴史必至だろう。


「お、おにいさんは最近さびしくてねぇえ、君たちの元気で慰めてもらおうとぉ、してたんだよぉ!」


 よし、完璧な回答!てゆーか幼女から話しかけられてしまった!バレてしまったが、こちらとしては好都合、さぁどう返す?


「そうだったんだぁ、ずっと前から気づいてたけど、いつもゆいちゃんがいっしょにいたからききに行きづらかったんだ!」


マジかよ、きづかれていた、だと...?


「こんどから、ゆいちゃんよんでなぐさめてあげるよ!」


 ナニッ⁉︎うまくいき過ぎてこわいんだが!


 童子はまるで小説とか漫画とかによくある主人公に激甘な展開が繰り広げられたので、喜びつつありながら相当動揺した。


「い、いやぁたすかるよ。今度からよろしくね。」


「わかった!じゃあもうかえるね!」


あれ、今慰めてくれないのか...

「バイバーイ」

こ、これは勇人に報告しなければ...

                 

                 1話 完


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