赤の魔法少女

水玉猫

面接試験

「敵とのバトル経験は?」

「ありません」


「戦闘の得意技は?」

「ありません」


「それなら、なぜ、きみは当社を志望したんだ? 当社は、魔法少女の派遣会社の中でもトップクラス。ゆえに、戦う相手も最強だ。それなのに、きみときたら、バトル歴も戦闘時の得意技もないという。当社がきみを採用するメリットがあるのなら、今すぐ答えてみなさい」


 不機嫌極まりない面接官に、魔法少女はニッコリと微笑みました。


「5分間待ってくだされば、お答えします」

「だめだ。面接時間は3分間と決まっているんだ。きみ一人に5分も延長時間を与えることはできない」


 魔法少女は彼の言うことなど気にも留めず、魔法のアイテムを机の上に置きました。

 面接官はきつねにつままれた顔で、魔法少女とアイテムを見比べました。




 ***




「ママのあとにも、面接の人、いたんでしょ」

「ええ。人気の会社だから、おおぜい面接試験に来ていたわ」


「ダメだよ、ママ。あとの人がいるのに待ってくれなんて言っちゃ」

「だけど、面接官はママが答えるまで、5分間じっと待ってくれたのよ」


「よく、待ってくれたね」

「そりゃ、待つわよ」


「すべり台だってブランコだって順番が来たのに『使うまで5分待って』って言っても、次の人は待たないよ」

「すべり台やブランコならね。でも、魔法少女の採用面接なのよ」


「なら、どうして?」

「ウフフ。きつねのおかげかな」


「ママは前にも言ってたよね、魔法少女のときのお付きの動物マスコットは、きつねさんだったって」

「そうよ、よく覚えていたわね」


「それで、ママはその会社に採用されたの?」

「もちろん」


「なら、なんで? 敵とのバトル経験もなくて、戦闘の得意技もないママが採用されたの?」

「きつねの魔法アイテムが、面接官のお気に召したからかな」


「なに、それ、知りたい! ねぇねぇ、ママ、きつねの魔法アイテムってなんだったの?」

「あなたの目の前にあるでしょ」


「えっ、これ?!」女の子は、ママが指差した赤いきつねをまん丸な目で見ました。

「そうよ、赤いきつね」


「うそ」

「うそじゃないわよ」


「だって、ママ、赤いきつねが魔法なわけないじゃん」

「お湯を注いで5分待つだけで、お出汁しみしみのおあげの乗ったきつねうどんができるのよ。美味しい魔法じゃないの」


「赤いきつねは美味しいけど。でも、カップ麺だよ。これで、どうやって、魔法少女は敵を倒すの?」

「敵だって、おなかがすくでしょ。おなかがすくと力が出なかったり、イライラして集中力がなくなったり。空腹は最強なのよ。その空腹に勝てるのは?」


「赤いきつね」

「ほらね」


「だけど、ママ、赤いきつねを食べたら、敵はまた力を盛り返して襲ってこない?」

「そうかしら。おなかをすかして怖い顔して戦いなんかしているより、赤いきつねを笑顔で食べている方がよっぽどしあわせって思うんじゃないかな」


「うーん」

「その証拠に、ママは採用されたんだもの。ママの得意技は、笑顔になる魔法なのよ、ウフフ」


「あっ、ママ、その笑い方、気になる。でもどうして、面接官は5分も待ってくれたんだろうね」

「面接官も、おなかがすいていたからね。お湯を注いだ赤いきつねを前にしたら、5分待たざるをえないでしょ」


「それなら、わかる。5分経ったら、面接官はどうしたの?」

「美味しそうに食べたわよ。それでママの採用が二つ決まったの」


「えっ、二つって?」

「入社とパパのパートナーの二つよ」


「やだ、その面接官ってパパだったの?」

「ウフフフ」


「ママったら、ごちそうさま。赤いきつねは、笑顔と恋の魔法なんだね」

「ごちそうさまじゃなくて、いただきますでしょ。ほら、もう5分たったわよ」


「わぁ、おいしそう! いただきます」

「いただきます」

 女の子とママは、笑顔で赤いきつねを食べました。



 すべては笑顔のために all for smiles

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赤の魔法少女 水玉猫 @mizutamaneko

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